なぜ、男性介護者は親を虐待してしまうのか?
そのMさんは男性介護者が虐待に至りやすい原因を次のように考察しています。
「男性は介護やそれに伴う家事のスキルが乏しく、女性よりもストレスは大きいのです。ただ、日々介護をしていればそうしたスキルも少しずつ身についていく。男性介護者にとって最も大きな問題は介護の悩みを吐露したり、相談できる相手がいなかったりして、精神的に孤立してしまうことだと思います」
介護疲れに加え、この「孤立」により身体的・心理的虐待に拍車がかかってしまうのでしょうか。
介護するのが女性の場合、一定の育児・家事スキルを持ち日々の出来事を話せる相手が身近にいることが多い。話し相手のなかには介護経験者がいることもある。悩みを聞いてもらったり、アドバイスを受けたりすることができるわけです。問題が即解決できなくても、悩みを話すことで精神的に楽になることもあります。
ところが、男性には身近にそうした対象がいないことが多く、問題を自分ひとりでなんとかしようとする傾向がある。そのため次第に精神的に追い詰められていき、虐待に至ってしまうケースが出てくるというわけです。
こうした男性介護者の「危うさ」は福祉担当者も認識しています。各地の地域包括支援センターなどが互いに語り合える場を設けることがありますが、呼びかけても参加する人が少なく、機能せずに終わるケースが多いそうです。
男性介護者が、互いに悩みや思いを吐き出せる場
それでも成功例はあります。東京・荒川区にある「荒川区男性介護者の会」、通称「オヤジの会」。介護保険制度が施行される6年前の1994年に創設され、以来25年間にわたって男性介護者に対して介護保険サービスの利用の仕方などをアドバイスしたり、介護者同士が悩みを語り合ったりする場として機能してきました。
オヤジの会では毎月1回、介護者が語り合う機会を設けています。偶数月の週末の夕方に行われる定例会と奇数月の第2金曜日の午後(日中)に行われる「サロンM」です。筆者は3月8日(13時30分から15時まで)に行われたサロンMに参加しました。
場所は荒川区社会福祉協議会があるビルの3階ミーティングルーム。参加者は6人で、初参加は私を含め2人です。
口火を切ったのは同会副会長の神達五月雄さん。簡単な自己紹介と現在、自身がどのような介護を行っているかを語りました。それにならって参加者たちも順番に現状を語っていきます。場をリードする神達さんが、まず自分のことを語ったことで、参加者が率直に話せる空気が生まれました。