「そうか、みんなつらいんだ」と納得でき、気持ちが楽になった
サロンに2年ほど参加しているHさん(60代)は、こんなことを語りました。
「このサロンに参加して“介護でつらい思いをしているのは自分だけではない”とわかりました。私が介護している母は認知症の症状があり、言うことは聞いてくれないし、わけの分からないことを始めて困ることが多く、私はいつもいら立っていました。思わず怒鳴りつけたり、手をあげそうになったりすることもあります。直後は反省するのですが、母のケアをするとまたいら立つという繰り返し。しかもそんな日々がいつまで続くのかわからない不安もある。不幸をすべて1人で背負ってしまったような気持ちでいたわけです」
「ところが、サロンに参加者のほとんどが同様の経験をしていました。なかには私よりはるかに大変な人もいた。それを知ったことで“そうか、みんなつらいんだ。自分と同じように折れそうになる心をなんとか持ちこたえながら介護をしているんだ”と思えた。それで少し気が楽になりました」
Hさんも自分の介護でつらいと感じていることを話したそうですが、他の参加者がそれをうなずきながら聞いてくれたこともうれしかったといいます。介護の悩みを共有し、共感してくれる人がいる。そういう場を持てたことが救いになったといいます。
以来、HさんはサロンMにほぼ毎回参加。2カ月に1回、この場に来るのが楽しみになったそうです。
「予想に反して会合が明るい雰囲気だったこともありがたかったです。話の内容は相当深刻ですが、会話が重くなることはほとんどありません。参加者には長年介護をしてきた方もいる。あらゆる事態を経験して達観しているというか、介護の苦労も笑い話のように語るんです。また、参加者には介護から解放されたつかの間、会話を楽しみたいという気持ちもある。話題が介護から離れて盛り上がることがあって楽しいんです」
オヤジの会が男性介護者の気持ちを支え、孤立を防いだ
Hさんは今年、お母さんを看取ったそうです。介護を卒業したわけですが、今後も出席を続けると言います。
「私は母の介護をしている時、このサロンで参加者の話を聞いて何度も救われました。これからは、そのお返しとして聞き役にまわり、経験を生かしたアドバイスができればと思っています。まあ、それ以上に、この場にいるのが楽しいということもあるんですが」
Hさんの話を聞くと、オヤジの会が男性介護者の気持ちを支え、孤立を防ぐことに役立っていることがわかります。しかし、各地の福祉団体が同様の集まりを設定しても、なかなかうまくいかないケースが多いなか、同会が長きにわたって男性介護者の心の拠り所として機能し得たのはなぜでしょうか。
「会を立ち上げた荒川不二夫会長の人間性や運営における配慮が大きいと思っています」と言うのは前出の神達副会長です。
「荒川さんは奥さんだけでなく、息子さんの介護もして、2人を看取るという経験をしています。男が介護をする大変さはもちろん、多くのつらさや悲しみをご自身が味わってきたわけです。それが同様の状況にある男性介護者への思いにつながり、悩みを語り合える会を作る動機になったそうです。荒川さんは壮絶な体験をしているにもかかわらず明るく前向きな方です。それに会は気晴らしの場でもありますから暗い雰囲気じゃ来てくれないという配慮もあるでしょう。荒川さんはそういう姿勢で男性介護者を温かく受け入れてきた。それが本音を語れる空気を作ったんだと思います」