「行動」と「やる気」は、最初は結びついていない

この仕組みも実は、会社でよく見られる光景と同じなのです。部下が仕事で失敗した後、「じゃあ、ちょっとキャバクラにでも行くか」と、上司が飲みに連れていく行為は、「ルパン」のトラウマ回避と同じ効果があるんですね。部下のやる気を引き出し続けるには、部下に失敗を引きずらせないことも必要になってくるのです。

脳内には行動のコントロールを担う線条体に、やる気や快感を司る側坐核(そくざかく)という部位があります。この2つは密接にリンクしているので、行動と快感は、常にセットなんです。先述のように、部下が行動したくなるような快感を、予測段階で発生させれば、部下は仕事をするようになります。

しかし、新規事業に取り掛かるときは、新しい仕事と快感が結びついていないのです。ゆえに、部下の行動を逐一褒めて快感と結びつけてあげることが、部下のやる気に繋がります。

「君は優秀な大学を出ているから」などではなく、「プレゼンの資料がわかりやすく、非常によかった」などと具体的に褒めることで、やる気の新たな発生源を確保できるのです。

また、たまに「やる気を出せば仕事は終わる」という上司がいますが、それは間違いです。上司は既にその仕事に飽きていて、やる気が出ていなくても、惰性と慣れでこなすことができますが、同じ仕事に初めて取り組む部下はやる気が出なければ仕事ができるようにはなりません。まずはやる気が出るように、部下に目的意識を持たせることが、部下を行動させるうえで重要なことです。

反対に、部下目線からは、どのように上司と付き合っていけばいいのか。人間の好き嫌いは、自覚とは別につくられるものということが、とある研究結果に表れているのです。例えば、上司がものすごく不機嫌なときに部下が質問に来ると、その部下を嫌いになる確率は否応なしに上がります。その逆もまた然りなのですが、他人に対する好感度は下がるほうが簡単なので、自分を評価する立場にある上司をいい気分にさせておくことは、部下にとっては非常に重要なことであるのです。

篠原菊紀
脳科学者
公立諏訪東京理科大学教授。脳科学を専門に研究多数。パチンコと脳の関係についても詳しく、パチンコメーカー豊丸産業と共同研究中。
 
(構成=安間一行 写真=PIXTA)
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