孤独を愛する人間は幸福か、不幸か?

フランス革命のバスティーユ襲撃の前年に生まれたショーペンハウエルも孤独を礼賛している。

「彼は『孤独と人生』(『幸福について』)のなかで孤独であることはよいことだと繰り返し述べています。『孤独は知的水準の高い人たちにとって二重の利点がある。第一の利点は、自分自身のみを相手にしていること。第二の利点は、他人と一緒にいないことだ』というわけです。とにかく彼は社交というものを非常に嫌った。今の時代に生きていたらツイッターなどのSNSは絶対ノーでしょうね。

彼の言う孤独は、孤高であれということ。『私は友達が少ないが、それはとてもよいことだ』と自負しています。同じ気持ちだったのでしょう、この台詞を『本当の天才の言葉だ』と絶賛したのがトルストイ。若いときにショーペンハウエルを愛読したのが、実存主義の代表的思想家ニーチェです」

失恋、病気の発作、母や妹との不仲、売れない本。孤独なニーチェが苦悩から逃れるために10日間で書き上げたのが『ツァラトゥストラはかく語りき』だ。「その内容は聖書のまったく逆をいくもので、聖職者や学者のような既成価値の擁護者を嘲笑し、国家の虚妄を暴き、女性や子どもなどの弱者を擁護する思想を容赦なく叩くものでした」

神が死んだ世界がやってくる。そんな世界で人はどう生きるべきかをニーチェは説いた。超人思想である。

「人は力強く孤独であるべきで、人に情けをかけるのは諸悪の根源であるとまで言うわけです。とはいえ、彼は鞭打たれる馬を見て、もうやめてくれ~、と馬にしがみついてかばい、そのまま狂ってしまうのですが」

偉大な哲学者は孤独のなかから、革命的な思想を生み出し、世の中に大きな影響を与えた。しかし、相思相愛の恋人に一方的に婚約破棄を告げたキルケゴール。ヴォルテールをはじめとする多くの人から嫌われる人生を歩んだルソー。狂人となったニーチェ。孤独であることが幸福であるようには、とても見えないのだが……。

「多くの哲学者が孤独は幸福に通じると言っていますが、その幸福は他人から幸福に見えるわけではありません。でも、自分は満足している。それでいい。他人の目を意識した生き方は、キルケゴール風に言えば、自らの意思で主体的に選ぶ生き方ではない。つまり、死に至る病、絶望に囚われてしまっていることにほかならないのです」

流されるままに楽な方向に生きている自分を見つめるのは辛いもの。孤独と向き合うには覚悟が必要なのだ。

日比野 敦(ひびの・あつし)
1962年生まれ。中央大学文学部卒業。書店勤務を経て「古書 比良木屋」を開業。著書に『古書店のオヤジが教える 絶対面白い世界の名著70冊』『90分で読む! 超訳「罪と罰」』。
(写真=iStock.com)
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