超大国アメリカには、いつも敵が必要だ
アメリカと中国がお互いの輸入品に高い関税をかけ合って貿易戦争が過熱し、影響は世界に広がっている。2018年12月1日(日本時間2日未明)、アルゼンチンのブエノスアイレスでG20後に米中首脳会談が行われ、アメリカ側が追加関税の猶予を決めたが、全面的な解決に向かう気配はない。この現状をどう捉えているのか。
【アタリ】トランプ大統領の極端な保護主義は、大いに憂慮すべき問題です。現状は中国のほうが、歯車が狂って破局へ転じないように賢明な対応をしていると思います。
【丹羽】私も、中国は短期的には痛手を被るが、長い目で見れば的確な対応で成長するだろうと考えます。アメリカ市場から締め出された中国製品は、「一帯一路」政策に沿って、アフリカやアジアへの浸透をこれまで以上に加速させるはずだからです。
【アタリ】高い関税を課したり、輸出を禁止するなど、トランプ政権は極端に走りがちなのが気がかりです。
【丹羽】冷戦時代に「COCOM(対共産圏輸出統制委員会)」という組織がありました。
これは、Coordinating Committee for Export Controlsの略で、資本主義国から共産圏に向けた輸出を統制するための機関です。1949年に設けられて、94年まで続きました。特に軍事面での技術漏洩に対して、大変な規制が課されました。現実に87年、日本の東芝がやり玉に挙げられました。子会社がソ連へ輸出した工作機械が軍事技術に転用可能な製品であり、これによりソ連は潜水艦のスクリューの音を小さくするのに成功し、米海軍によるソ連潜水艦の追尾を困難にしたというのです。アメリカ政府が東芝グループ全社の製品を輸入禁止にしたため、会社の存亡にかかわる危機になり、国内法でも外為法違反判決で親会社東芝の会長、社長が辞任する騒ぎとなりました。現在のアメリカの政策は、あの時代の再来ではないかという気がします。
【アタリ】あからさまな保護主義政策が推進され、同盟国さえ攻撃対象になっていますからね。
【丹羽】私が懸念しているのは、18年8月にトランプ大統領が署名した「国防権限法」によって、「対米外国投資委員会(CFIUS)」の権限が強化されたことです。Committee on Foreign Investment in the United Statesですね。外国企業からのアメリカへの投資を審査して、大統領の承認を得られれば、安全保障を理由として差し止めることができるようになったのです。法案成立に先立ち、トランプ大統領は、中国企業やシンガポール企業による半導体メーカーの買収にストップをかけていますが、これまで以上に投資を制限する行動に出ることが懸念されます。日本の会社の買収事案でも業務が制限される事例も発生しています。