学術論文の多くが無料で手に入るようになり、オンラインでのコースなど、学ぶ方法が多様化している現在、果たして大学にそれだけ多額の費用を投入して通う意味があるのかとティールさんは問う。

そんな思想を背景として、ティールさんが若手の起業家などに提供している「ティール・フェローシップ」は、大学に行かないか、行っていたら辞めることが条件になっている。大学などに行かずに、自分のやりたいことに専念すべきだというメッセージが込められているのだ。

大学関係者の反応も様々で、マサチューセッツ工科大学のように、ティール・フェローシップを獲得することを歓迎し、期限の終わる2年後の復学の便宜を図る事例もあれば、ハーバード大学元学長のように、ティールさんの発言、行動を烈しく非難するケースも出てきている。

大学のあり方が問われ、また、学びの環境が激変していることは事実である。一方、大学という組織の利点、培ってきた伝統の強みもあり、今すぐ大学がなくなってしまうという状況にはない。

ティールさん自身が、名門スタンフォード大学の学部とロースクールを卒業していて、その経歴をもってして大学無用論を説くのは少し矛盾しているのかもしれない。

いずれにせよ、大学を産業として見たとき、年間100万円単位の費用がかかる産業構造が今後も変わらないのかどうかには議論の余地がある。

人工知能などのイノベーションの結果、もっと安く、また広く開かれた学びのプラットフォームが出てくる可能性があり、そのとき「大学」は根本的な変革を迫られるのだろう。

(撮影=横溝浩孝 写真=AFP=時事)
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