【田原】カヤックの葬儀や結婚式は普通のものと違う?

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【柳澤】葬儀は「鎌倉自宅葬儀社」といって、自宅での葬儀専門でやっています。結婚事業は、ウェディングプランナーとのマッチングサービス。結婚式を挙げたい人は普通、ブライダル情報誌などを読んで式場を選びますが、うちはまず場所ではなく人を選ぶ。質問に答えていくと、自分の趣味や希望に合ったプランナーが何人かマッチングされて、そこから話し合って「あの式場でやろう」「場合によっては原っぱでもいいよね」と決めていきます。このサービスはほかにやっているところがないので、いまけっこう伸びています。

【田原】そういう事業がいまいくつあるんですか?

【柳澤】あげるとキリがないですね。いま400人のクリエイターとグループ会社8社が、それぞれ特化していろんなものをつくっている状態です。

【田原】ところで、カヤックは鎌倉にある。どうしてですか?

【柳澤】起業するとき、「誰とやるか」と同じくらいこだわったのが「どこでやるか」。ただ、当時は鎌倉で起業した理由をうまく言語化できなかったですね。なんとなくいいなと。

【田原】いまは言語化できる?

【柳澤】はい。鎌倉は海と山、そして文化的な施設が歩いて行けるところにぜんぶある。住みたい町ランキングの上位につねに入っているし、一方で観光客が年間2000万人超も訪れる。そこに僕たちのようなベンチャー企業を受け入れる懐の広さもあってとても面白いですよ。

【田原】面白い?

【柳澤】鎌倉にいまうちのオフィスが10カ所くらいあります。田原さんに今日お越しいただいたのは、会議室専門の棟。みんなも会議したいときはそれぞれのオフィスからここまで歩いてきます。いわば町全体をオフィスに見立てるようなもので、それが楽しい。

【田原】町全体がオフィスねえ。

【柳澤】十数年前にグーグルとアップルの視察に行きました。すると、街からすごく離れたところに広大な敷地があって、オフィスから食堂、保育園、ジムなどすべての機能がそろっていました。まるでユートピアで、そのときは楽しそうに見えました。でも、社員だけしかいないから閉じているんです。よく考えてみたら、閉じた世界はつまらない。僕は町に溶け込んでいるほうが面白いし、こっちのほうに潮流があると思う。

【田原】柳澤さんは鎌倉にお住まい?

【柳澤】はい。住んでいるところと働いている場所が一緒で、自分が頑張れば自分の住んでいる町や働く会社がよくなる世界をつくりたいなと。