「大企業の社員」も巻き込みたい

さて、「マネジメントができなくなるのではないか」との声には、もう一つ答えがある。

「それは、人事評価をしっかりすること。もちろん、複業に関しては全く口をはさみませんので、本業における評価です。その評価自体をオープンにしているわけではありませんが、小さな会社ですので、どんな任務を与えられているか、だいたいはみんながみんなのことをわかっています。会社としては、誰の目から見ても、そのミッションを遂行できているかどうかのみを注視していけばいいのです」

オープンにすること、きちんとした評価をすることの2つを経営者が見失わなければ、部下を持つ直属の上司が抱く懸念は払拭されるのかもしれない。

「結局、直属の上司たちは『会社から給料をもらっているのに他社の仕事にうつつをぬかすなんて』と古い枠組みに縛られていたり、『お前らだけ自由にやって』と嫉妬をしているに過ぎないのです。自分自身も自由にやればいいだけのことなのです……」

複業に対し「人材流出」を懸念する向きもあるだろう。

「辞めていく人は、どんなことがあってもなくても、いずれ辞めていくものです。ただ一つ言えるのは、当社の場合、たとえば複業でやっていた事業が大きく育ち独立して辞めて行く人がいたとします。その際、『なんだアイツは』と関係を断ち切るのではなく、フェローとしてゆるやかな関係を続け、『相利共生』を志向しています。つまり属人的な情報資産、人間関係資産の流出をある程度は食い止められるわけです。また社内には一つポストが空くので、出世してそこに就任できる社員が出てくる。人事面で停滞しがちな中小企業にとって、これは見逃せないメリットです。社内の新陳代謝が活性化するのですから」

加藤社長はそれどころか、「人材流入」すら見越している。

「働き方改革の進展により、すでに大企業の社員を中心に時間を持て余す人が増えています。副業をしたりパラレルワーカーとなったりする人も出始めているわけです。中にはフリーランサーを発展させたチームランサーとして、つまり組織体として活躍し始めるケースもでてくるでしょう。そうした人々をどんどん当社に取り込んで行きたいと考えています」

同社が社員35人の会社とは思えないほど多くの事業やサービスを展開できるのは、数多くの有力な外部パートナーあってこそなのだ。

新卒の採用活動においても、エンファクトリーの人材ポリシーに共鳴する若者は増えている。

「インターネットが広く普及し始めたのは1990年代の後半から。今やテクノロジーの進化によって、クラウドソーシングやクラウドファンディング、さらには情報発信など個人でいろんなことをやれるハードルがすごく下がってきています。一方、企業はバブル経済の崩壊、リーマンショック、東日本大震災などを経て、周囲の環境が大きく変わりました。

就活する学生の中には、『一つの企業にしがみついて定年まで安泰でいられる時代ではない』という思いがどこかにあるのでしょう。個を磨く意識の高まりを感じます」

同社は7年連続増収増益と、業績も伸び続けているという。中小企業ならではの人材活用法は参考にしたいポイントが数多くありそうだ。

(小澤啓司=文 写真提供=エンファクトリー)

加藤健太(かとう・けんた)
株式会社エンファクトリー代表取締役社長
1966年三重県生まれ。名古屋大学工学部卒業。1989年リクルートに入社し、事業統括、財務、経営企画などに携わる。プライスウォーターハウスクーパースを経て、2000年オールアバウトの設立に参画、取締役最高財務責任者(CFO)に就任。11年エンファクトリーを分社設立して現職。
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