さらにその上が「インターパーソナル・スキル」。マインドフル(相手に配慮をした)・コミュニケーション、信頼関係を築く力など、人間関係構築力と言い換えてもいいでしょう。この点は、日産の社外から、しかも外国からやってきたゴーン氏には、日本でのネットワークも経験もなく、日本で信頼を獲得するまでには高い壁がありました。特に日本は信頼を得るまでに長い時間がかかる国です。そこで、ゴーン氏は日産にやってきた直後、500人(一説には1000人とも)の日産関係者と会って話をし、日産の現状を知るとともに信頼関係の基盤を構築してゆきました。経営者にとって最も重要な資源である「時間」を、初期の信頼構築と情報収集に投資したのです。

そしてピラミッドの頂点が「システム・スキル」。「変革をリードする」「イノベーションを育てる」など、リーダー独自の要素です。

複雑なことを複雑なまま、認識する力とは

一番下の段の「知識」と、上の2段の「スキル」は、訓練次第で後天的に身につけることができます。しかし下から2段目の「スレッシュホールド・トレイト」を訓練で獲得することは比較的難しく、もともと持っているかどうかが重要になってきます。ゴーン氏は、スキルは素晴らしい人です。もしも「誠実さ」や「高潔さ」などの資質が欠けていたとしたら非常に残念です。

グローバル企業の経営者に必要な資質とは何か。(AP/AFLO=写真)

ちなみに日本人には、この「誠実さ」「謙虚さ」「レジリエンス:弾力的な打たれ強さ」などがもともと備わっている人が多い一方、ピラミッドの上半分を身につけている人が少ないのです。逆にいえば、後天的に身につけるのが難しい部分はすでに持っているのだから、あとは経験を蓄積したり、適切な訓練をしたりするだけ。そうすれば日本にも魅力的なグローバル・リーダーがどんどん誕生する可能性があるというのが私の認識です。

さて、ゴーン氏はピラミッドの上半分の要素を意識的に鍛えてきた人です。もし彼に「誠実さ」「高潔さ」がないとしたら、ここは鍛えにくい部分のため、そこは会社が「仕組み」で対応しなければなりません。しかし日本企業ではその点を個人の資質に頼る傾向が強く、トップが悪事をはたらくようなケースをあまり想定していません。一方海外ではトップが暴走しないように「コーポレート・ガバナンス」という名の仕組みをつくってきたわけです。

とはいえゴーン氏に本当に高潔さ、誠実さがなかったのかどうかは、2018年11月末の現時点ではまだ明らかになっていません。しかし少なくとも、彼のリーダーとしての会社への過去の貢献は、明確です。彼の逮捕と、過去の貢献とは分けて考え、われわれが学べることを抽出してみましょう。