先を読むことができなかった日本企業

一方、日本のマスコミは、トランプ政権の対外政策を「保護主義」と批判するばかりで、トランプ政権が米中貿易戦争を本気で仕掛けることをほとんど紹介してこなかったし、日本政府も、米中対立が深刻になるとの見通しを示そうとはしなかった。もちろん、トランプ政権のように減税も含めた対応もしてこなかった。

要は、日本企業は何の事前告知ももらえず、日本政府からも対策を講じてもらえなかったわけだ。

むしろ逆に、米中貿易戦争が勃発した直後の2018年10月、安倍政権は2019年10月の消費税増税を明言し、国内消費を冷やす行動に出た。

日本市場が先細りになっていくという見通しのなかで、日本企業の多くはやむをえず、中国企業とのビジネスに期待を抱き、米中貿易戦争が始まったにもかかわらず、中国への投資を増やしてきたのである。

勝ち組「アメリカ」のエリートの思想法

かくして、アメリカを中心とした国際政治の動向とビジネスとの関係を真剣に考えてこなかった日本企業の多くは今後、ますますエスカレートする米中貿易戦争の前に、どうしていいのかわからずに立ちすくむことになるだろう。

この日米の違いは何か。米中貿易戦争をどう捉えたらよいのか、そもそもトランプ政権は何をめざしているのか。このことを理解し、前向きに対応するためには、たんなる知識だけではダメなのだ。

Diplomacy(外交)、Intelligence(インテリジェンス)、Military(軍事)、Economy(経済)の四分野で国家戦略、国益を考えることをその頭文字をとって「DIME」というが、この思考法こそ外国、特にアメリカのエリート層の常識なのである。

一方、日本のエリート層といえば、国家戦略、国益という発想がまず存在しないし、日本のマスコミを筆頭に、先の戦争の敗北のためか、軍事アレルギーが強く、軍事についてはほとんど知識をもっていない。スパイ工作を含むインテリジェンスのことも学校教育では教わらないし、政治家もビジネスマンもその多くが自社の利益を追求することに忙しく、国際経済の動向さえきちんと追っている人は多くない。

このままでは、日本企業の多くが負け組になるだろう。それが嫌な人は、トランプ政権の国家戦略と、その理論的な枠組みの基礎である「DIME」を理解してもらいたいと切に願う次第である。

江崎 道朗(えざき・みちお)
評論家
1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集、団体職員、国会議員政策スタッフを務めた。安全保障、インテリジェンス、近現代史などに幅広い知見を有する。著書に『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)などがある。