たとえば、円の国際化についていえば、なぜそれが進まないのか、その阻害要因は何か、具体的な促進策は何か、その促進策をどういう手順で打ち出し世のコンセンサスにもっていくのか、などを密かに練っておくのである。そしてひとたび時期が到来し皆がその策について考えあぐねているときにこれを示し、上司にその具体策を実行させるのである。
名捕手のように上司の実力を引き出す
上司がその果たそうとしている役割を上手に果たせるようにリードすることも、時として部下の役割である。この役割は課の全体的な仕事を補佐する総括課長補佐や、局全体の動きを円滑に行なうことをその役割の一部とする各局総務課の総括課長補佐の場合に期待されるものである。ちょうど野球のキャッチャーがそれぞれのピッチャーの特色を上手に引き出して相手バッターを打ちとるように、ピッチャーたる課長の特技を最大限生かせるようにリードするのである。
課長によっては、アイデアは出るがその措置がベストかどうか十分に検討することなく作業の指示を出し、後でまずかったと再考する人がいる。こういう人の場合は、内容にいささか疑問がある場合には直ちにはその命令を実行せずに放置しておく。2、3日たってから「オイ、君、あれはちょっとまずいのではないかな」と言われる場合に備えるのである。
また、交渉にあたって先方に必要以上に強くあたる癖のある上司もいる。どうせ後で大幅な妥協をするのであれば、当初に不必要に強く出て相手に不快感や恐れを与えるようなことは避けるべきだと思うが、人によっては、そういうことが習い性になっている。こういう人との組み合わせになった場合には、最後にはうまく決着をつけるのであまりあわてないようにと先方に密かに告げるのも部下の役割である。
課長とともにベストの仕事をすることになればそれでよいのである。ただしこういうふうなことをやれるためには、自分の上司の性格をよほどよく知っており、かつ、上司の信頼が格別に厚いことが前提である。
西日本シティ銀行会長
1942年生まれ。福岡県出身。66年、東京大学法学部卒業、大蔵省(現・財務省)入省。69年、オックスフォード大学経済学修士。税制改正、財政投融資計画、省内調整などを手がけた後、サミットなどの国際金融交渉にかかわり、議長として95年の日米金融協議をまとめる。国際金融局次長、関税局長を経て国土庁事務次官を最後に退官。現在、西日本シティ銀行会長および西日本フィナンシャルホールディングス会長。著書に『新しい国際金融』(有斐閣)、『日米金融交渉の真実』(日経BP社)など。