官僚の重要な仕事の一つは、さまざまな政策の企画立案だ。その際に官僚は、性質の異なる3種類の文書を書く。元財務官僚の久保田勇夫氏は「その政策のデメリットを並べたうえで、それでも進めるべき理由を明示しなければいけない。いわば論争の際の『紙爆弾』を用意しておくのだ」という――。

※本稿は、久保田勇夫『新装版 役人道入門 組織人のためのメソッド』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

官僚の文書には、「分析の文書」「検討の文書」「説得の文書」の3種類があり、それぞれが担う機能に沿ってきちんと書き分けることが重要だという――(※写真はイメージです 写真=iStock.com/west)

政策決定のプロセスで求められるもの

役人の基本は文章であり、正確な文書をつくりうることは有能な役人の基本的な条件である。その仕事の精髄が政策の企画立案である場合、代表的には霞が関の中央官庁である場合、まず、その仕事のプロセスで書くべき文書には性質の異なった3種類のものがあることに留意すべきである。それらは、「分析の文書」「検討の文書」および「説得の文書」である。

これらの3つの文書は、政策決定のプロセスにおいてそれぞれ異なった役割と性質を持つ、したがって、その書き方およびその背後にある考え方も異なっている、にもかかわらず、これらの文書の違いが理解されることなく、それぞれの要素が混在した文書が多い。

その結果、政策決定の際の議論が無用に混乱することが多く、はなはだしい場合には誤った結論へ導かれる。1つの文書を書こうとする者は、自らが今その3つのうちのどの文書を書こうとしているのかを明確に頭に置くべきである。

情報を客観的に眺めるための「分析の文書」

政策を決定しようとする場合にまず必要とされる文書は、その対象となっている事態についての分析の文書である。ここではそのテーマについて、できるだけ正確な情報を可能な限り客観的に収集分析し、それこそ神にも通じる心境で中立的に叙述するのである、そのテーマが自分の専門でない場合や自分の役所の得意とするところでない場合には、専門の人や、そのテーマを得意とする役所や民間の機関の知恵を借りなければならない。

分析の文書の作成過程においては、部外者のなかでも、特に大学、研究機関の成果を最大限取り入れることが必要である。事態の分析であることから、その正解は、どのような組織にいても同じであるはずである。事柄の性質上、この役人の分析の文書を書く仕事は学者の仕事に似ている。