この「分析の文書」の質を高めるのは、その分析の深さである。したがって、この文書をいかに良く書けるかは、一般的な文書作成の技術を除けば、そのテーマについてどの程度深い知識をもっているかにかかっている。
円ドル相場がテーマであれば、為替市場の仕組み、外貨と円との需要・供給の関係およびその構成要素、主たるプレイヤーの行動の習癖やその現在の為替のポジション、現時点での投機家のセンチメント、関係国の政策スタンス、などについてどの程度詳しく知っているかということが、その文書の質を決めることになる。
今何が起きているのかを正確に分析する
たとえば、為替相場が1ドル120円から125円に急速に変化し、世の中が一層の円安を心配しはじめた際の「分析の文書」について考えてみる。
まず、この円安傾向が、いかなる要因に基づくものかが大切である。わが国の貿易収支が悪化(黒字幅の縮小)しているためか。あるいはわが国の経済成長率が低下したとか、わが国の財政赤字の拡大が生じ、それによってわが国の経済政策に対する信頼性が疑問視されるようになったのか。何らかの理由で円を買い過ぎていた市場関係者がその為替ポジションを調整するために円を売ってドルを買っているだけなのか、それとも市場参加者がそのチャート分析などに基づいてある為替レートに達したために円売りをしているのか。
円安の原因が、わが国にあるとは限らない。米国経済が予想以上に強いことが判明したために人々がドルを買っているためかもしれない。あるいはドル金利の上昇が見込まれるため、人々がドル資産への投資を増やしている結果なのかもしれない。ユーロがドルに対して弱くなり、そのあおりをうけて円が安くなっている(「円の連れ安」)ためかもしれない。
「分析の文書」では、この円安をもたらしている1次的要因を上記の通りまず分析する。そして、それをもたらしている2次的要因は何か(仮に1次的要因がわが国からの資本の流出ということであれば、それをもたらしている原因は、米国の金利の上昇なのか、わが国の金利の低下なのか、金融を緩めようとしているわが国の経済政策のスタンスなのか、米国の将来の経済政策かなど)を分析するのである、そして、この2次的要因がどの程度続くのか、そういう2次的要因を放置すればどの程度までの円安が見込まれるのか、全体としてどの程度の期間、円安が続くことが予想されるのか、を分析するのである。
もちろん、この分析によって、結論が明確に一本にしぼられる保証はない、たとえば125~126円で収束する可能性と、130円まで進む可能性の双方が示されることもあるし、その間の日々の変動幅についても異なった分析がありえよう。いずれにしても、まずは正確な分析をすることが、正しい政策決定のための基本である。