談志が本当に伝えたかったこと

▼筋トレと談志の共通項1 :「むちゃぶり」
ベンチプレスは現在120キロを上げる

筋トレは「むちゃぶり」が基本です。冒頭で私はベンチプレス120キロを上げると申しましたが、スタートは20キロからの重さからでした。今持ち上げられる6分の1の重さですが、最初の頃は翌日胸に筋肉痛が起こったものです。

しかし次第に重さに慣れていくので、25キロ、30キロ、35キロとどんどん重さを増やしていき、身体に「むちゃぶり」していくのです。自分の成長ぶりが重さという形で数値化されるのは、ものすごい励みになります。数値化は客観化でもあり、60キロのベンチプレスが精いっぱいの人にしてみれば、80キロ上げる人は憧れであり、100キロ上げる人はさらにまぶしく見えるものです。

談志もまさに「むちゃぶり理論」を実践している人でした。弟子には「踊りを五曲覚えろ」「歌を十曲覚えろ」とむちゃぶりをします。しかも、それをそのまま「はい、踊りを五曲覚えました」「歌を十曲身につけました」と弟子が返しているうちは、永久に昇進させないのです。

ダンベルの重さに筋肉が追いつくように生きる

これは「『いろは』を覚えて来いと言って、『いろは』と言ってどうするんだ」というのと同じです。談志が言いたかったのは「『いろは』の先にはまだいろいろあるだろう。『いろはにほへとちりぬるを』と。その先が見えないうちは、認めない」ということでした。

前座の頃、ここでつまづいた私は、ある日「倍返し」を思いつきました。

「踊りを五曲」と言われたら十曲を、「歌を十曲」と言われたら二十曲をと、談志のリターンに対してリターンエースを、むちゃぶりに対してむちゃぶり返しを試みたのです。すると、向こうは私に対するそれまでの評価を変えてくれたのでした。「やっとお前も俺と同じ価値観になったな」と。師匠はダンベルの重さに筋肉が追いつくように、私がむちゃぶりに追い付くのをずっと待ってくれていたのです。