今回の景気拡大で儲けた人・企業とは
多くの人には実感がないようですが、今回の景気拡大期に、「しっかり儲けた人・企業」もいます。例えば、米国や中国など海外で活躍した企業です。
中国経済はここにきて減速傾向を鮮明にしていますが、それでも最近までは輸出や現地生産などで、利益を確保してきました。自動車メーカーやそれに付随する工作機械メーカー、そして、現地で店舗を展開する流通業も業績を確保してきました。さらには、それらの企業の国内での工場や機械設備などの設備投資や、東京オリンピック関連で恩恵を受ける建設業なども比較的調子が良かったと言えます。
もうひとつ業績が良かったのはインバウンド関連です。少し指標を見てみると面白いことが見えてきます。
GDPの5割強を支えているのは、家計の支出(個人消費)ですが、これは、この長い景気拡大期でも、まったくさえませんでした。とくに消費税増税があった2014年度の落ち込みはひどく(実質でマイナス5.1%)、15年度、16年度もマイナスが続きました。この結果、8%から10%への消費税増税が2回延期されたのです。
17年度に入って、家計の支出はようやく0.2%とわずかにプラスになりましたが、18年度も前年比マイナスの月が多くなっています。繰り返しますが、GDPの5割強を家計の支出が支えており、それに力強さがないので、多くの人が成長を実感できないのです。
訪日外国人によるインバウンド消費で潤った業界
一方、売る側の統計を見ると意外な事実が浮き彫りになります。「小売業売上額」の伸びを見ると、2014年度は消費税増税の影響で比較的大きなマイナスですが、15年度、16年度、17年度ともに個人消費の伸びの数字を上回っているのです。家計の支出は総じてマイナスなのに、なぜ小売業売上は上向いたのでしょうか。
その理由はとても興味深いものです。家計の支出には、小売り以外の通信費や教育費、医療費なども含まれます。このところ通信料金が下がっていますが、それも家計支出が減少した原因となっているのです。
もうひとつの原因は、「インバウンド消費」です。旅行者など訪日外国人が買うものは、日本に住む人の「家計」の支出には含まれませんが、小売業販売額には加算されます。訪日客の消費額は2017年で約4兆4000億円と言われており、日本経済に大きなインパクトがありました。
ただし、もうひとつの景気指標を見ると、違う側面が見えます。「全国百貨店売上高」です。2014年度は消費税増税の影響もあり、前年比マイナス4.6%と大きく落ち込みましたが(その前年度は駆け込み需要もありプラス4.0%)、2015年度はプラス1.8%と従来に比べても大きく上昇しました。これは、この頃に、インバウンド消費が急拡大したからです。百貨店では高級時計などが飛ぶように売れた時期です。
しかし、その後は、2016年度マイナス2.9%、2017年度プラス0.4%、2018年度は前年比で総じてマイナスです。これは、2015年度あたりから中国の経済状況が減速傾向を見せ、海外での人民元の売りが増えたことにより、中国政府が人民元防衛のために、外貨の持ち出し規制や関税の強化などを行ったためです。
それでも訪日外国人は、順調に増え続け、2018年にはとうとう3000万人を超えました。そのおかげもあり、東京や大阪だけでなく、京都や福岡、札幌などの地域では主に訪日客向けのホテルが次々と建設され、ホテル業界、建設業界も活況を呈しました。