痛いと思われない処世術としての謙虚さ

【田中】それは、「痛いと思われたくない」みたいなことですか?

【山田】芸人の世界は、特にその感覚が強いかもしれません。売れてるときに忙しぶってると天狗に見られるから、忙しくても「ぼちぼちです」あるいは「全然です」って言うのがベターだとか。『エンタの神様』(日本テレビ系)に出るようになって営業が増えたくらいの段階で「いやあ、忙しいっすわ~」とか言うのはいかがなものかと(笑)。まともな人ほど、「まだまだっすわ」と謙遜する。

【田中】まあ、一般論として男性は、「こちら側の自分」を大きく見積もりすぎることには、気をつけたほうがいいかもしれませんね。処世術として謙虚であることは必要でしょう。特に、30代までに何らかの成功を収めた人が、10年後も通用するかわからないスキルにあぐらをかいて、40代で天狗になったり横柄になったりしてしまう、というのはサラリーマンでもよく見かけますから。

痛くても周りが指摘してくれない40代

【山田】芸人って、ウケた・ウケないという指標がはっきりしているので、人からどう見られるかにはやっぱり敏感ですよ。常に自分で自分を戒めるというか、モニタリングしているようなクセがついている。

【田中】40代のコミュニケーションの難しさとして、自分が年長者になってしまったことで、痛いことをしても周りが指摘してくれない、ダメなことをしても叱ってくれる人がいないという問題はありますね。僕のように大学で研究職をしていると、みんなが自分の専門しか知らないし、特に男性学は人材不足ですから、同世代で競う人がいないので、自分がどの程度のものなのかわからない。これって恐ろしいことですよ。

【山田】気づいたら、とんだ“男性学ピエロ”になっている可能性もある、と?(笑)

【田中】いやあ、本当にその通りですよ。不勉強でとんちんかんなことを言っていることに気づかず、「あいつダメだな」と思われているかもしれない。自分で律するしかないので、必死に研究してますよ。

田中俊之(たなか・としゆき)
社会学者
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。
山田ルイ53世
お笑い芸人
本名・山田順三。1975年生まれ。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。地元名門中学に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て愛媛大学入学、その後中退し上京、芸人の道へ。雑誌連載「一発屋芸人列伝」で第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞「作品賞」を受賞。同連載をまとめた単行本『一発屋芸人列伝』(新潮社)がベストセラーに。
(写真=iStock.com)
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