「こうありたい自分」を自ら殺してしまう
【田中】宮台先生のような社会学者になりたいと思っている僕を「こちら側の自分」、他者から見られている、男性学の専門家としての僕を「もうひとりの自分」と表現するとしましょう。「こちら側の自分」と「もうひとりの自分」の間でバランスを取って人は生活しているわけですが、他人の目ばかりを気にすることは、「もうひとりの自分」に不当な権威を与えて、「こちら側の自分」に虐待を与える結果になると加藤先生は警告しているんです。
【山田】相手の立場に立つのは大事だけど、他人の目を気にしすぎると、理想の自分が死んでしまう、ということですかね。
「野心はみっともないから隠しておく」
【田中】だから、男爵だって、一発屋のコスプレキャラ芸人という「もうひとりの自分」に自己像を合わせすぎて、MCや冠番組をやりたいという「こちら側の自分」を殺す必要はない、ということですよ。
【山田】ただ、そういう野望は持っていてもいいけど、隠すべきでしょうね。今思えば、おこがましいなとめちゃくちゃ恥ずかしくなるのですが、僕たちが一度ブレイクした2008~2010年頃、あろうことかブラックマヨネーズさんをライバルだと思い込んでいた時期があったんですよ。単純に、同じ時期に同じような番組でご一緒させていただくことが何度か続いたという、極めて薄い根拠なんですけど。
奇遇にも当時、「Yahoo! ニュース」のQ&Aに、「ブラマヨと髭男爵はどっちが面白いと思いますか?」と質問している人がいたんですが、それに対して一般の人が、「全然違います。髭男爵はすぐに消える」と回答していて。
【田中】それはまた辛辣な(笑)。
【山田】ええ、ただ、まったく正しい分析でしたけどね(笑)。その後も、誰か他の芸人さんの活躍を見るたび、嫉妬したりクサクサしたりしてましたが、40歳過ぎてからは、「今から勝負になるわけがない」という諦め方をしていますね。「まだまだ……」という気持ちも少しはあるけど、それはみっともないから隠しておこうと思ってます。