厳しい治療だからこそ必要な覚悟と納得

食道がんでは、手術以外の治療法の開発がなされている。化学放射線療法は、この10年で一定の評価を得ている。また、手術前に化学治療をすませてしまう術前化学療法の検証も進む。

化学放射線療法とは、化学療法と放射療法を組み合わせ、手術同様の根治を目ざし、期待通りの効果が得られたらそのまま経過を見る方法である。この場合は、がん細胞が消えれば、食道を残すことができる。しかし、根治しなかったときは、内視鏡での切除かサルベージ(救済)手術をする。もとのがんの深達度が深かったときに採用されるサルベージ手術となると、初めから手術をした場合と同様の効果は望みづらく、手術のリスクも手術だけの場合に比べ3倍以上に上昇してしまう。

患者はどうしても、手術のリスク、体に大きくメスを入れること、食道を取ることで手術前の食生活が維持できないことに目がいきがちだ。しかし、「手術ができるなら、それが治療の第一選択であることを忘れないでほしい」と梶山教授の語気が強くなる。

さらに「どの治療を選択しても、厳しい病気であることの自覚なしには、食道がんの治療は進まない。治療をしなければならない自らの病状、手術のリスク、術後のQOL低下をすべて引き受ける覚悟をもち、治療をしていくのか。それとも、そこまでの覚悟がないので、きつい治療を避けるのかを、自分自身で決めないといけない。一度決めたら治療に専念し、迷わないこと」と恵佑会札幌病院の細川正夫理事長はしみじみ語る。

医者は、患者が本心から「お願いします」といっているのか、ただ口にしているだけなのか、わかってしまうようだ。心の底から、いわれれば、「よし頑張ろう」と医師には力が湧く。逆に治療方針への不安や恐れは、治療への不満という形で顔を出し、治療の中断や遅れを招くことがある。梶山教授も細川理事長も同じような体験をしている。

梶山教授は病院や主治医選択を、結婚に例える。自分の伴侶選びが、正しかったのか、についての答えを他人は与えてくれない。自分で考え、決意して前に進むのが最良の方法であり、信頼関係が最も重要。それは、主治医との関係づくりでも同じではないか、という。

「食道がんは治療も予後も大変なだけに、初期に発見したい。そうすれば内視鏡治療が可能で、根治率も高くなる」と細川理事長は力を込める。

食道がんの検診には、内視鏡が用いられる。食道の内視鏡治療(DPCの数字には、一部入院を伴うバルーン拡張治療なども含む)の実績がある施設は、食道がんの内視鏡検診の専門性をもつ。

食道がんは、(1)喫煙、(2)多飲酒、(3)60代を中心に50代から70代の男性、(4)血縁に食道がんの罹患者がいる人に多いとされる。該当する場合は毎年一度検診を受けたい。

食道がんの内視鏡手術は、EMR(内視鏡的粘膜切除術)とESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)があり、ESDが主流になりつつある。食道はいくつかの層からできているが、すべて合わせてもその厚さは4ミリ程度。内視鏡では、その表面の1ミリもない粘膜や粘膜下層を切っていくだけに「食道壁を傷つけないように十分に注意しながら、治療をする」と恵佑会札幌病院消化器内科の高橋宏明部長は語る。内視鏡治療後約15%の患者は治療時にはなかった新しいがんが出現してくる。定期的な検査とともに食道がんの発症リスクを高めるアルコール、タバコを控えるだけなく、毎日の野菜・果物摂取も併せて、高橋部長は術後の指導をしている。

※すべて雑誌掲載当時
※ランキングは1607病院のDPCデータを使用。2009年7~12月の6カ月間の退院患者についての治療実績。「―」は10例未満、または分析対象外とされたもの。

(Getty Images=写真 ライヴ・アート=図版作成)