治療実績は病院の実力を知る一つの指標。納得の治療を受けるには、病院と「治療法」選びが重要。手術数から実力病院を検証する。
肝機能の状態、腫瘍の数・大きさで治療法を決定
肝がんのほとんどを占める肝細胞がんは、肝炎ウイルス感染に起因する。肝炎ウイルスによって肝炎を発症すると、その部分の細胞の破壊が進む。修復を繰り返すうちに肝臓機能が衰えて肝硬変となり、一部の人は肝がんへと進行していく。これを原発性肝がんといい、他の臓器に発生したがん細胞が肝臓に転移する転移性肝がんと区別する。原発性肝がんの95%が肝細胞がんで、そのうちC型肝炎のウイルス保持者が75%、B型肝炎保持者が15%となっている。
肝臓は、臓器のなかでただ一つ切り取っても再生する力を備える。また、余力にも富み健康な人なら70%まで切除可能だ。がんの治療をしても、もともとの肝炎や肝硬変であることは変わらないため、切除した場合でも5年以内に約75%の患者でがんが再発してしまう。そこで、肝臓の再生力と余力の状況に鑑み、治療方法を組み合わせながら上手にQOL(生活の質)を維持していくことになる。
肝細胞がんの三大治療とされるのが、外科が行う切除、内科が担当するラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法だ。1回の治療効果が最も大きいのは切除になるが、他の治療に比べて肝臓の余力が必要となる。
日本肝臓学会は、昨年(1)肝機能の状態、(2)腫瘍の数、(3)腫瘍の大きさの3点を勘案して治療方法を決める最新の『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2009年版』を発表した。
ガイドラインでは、肝障害が軽度で、腫瘍が1つだけであれば、大きさに関係なく切除を第一選択とする。肝障害の程度が軽度でも腫瘍が2つ、もしくは3つになると、切除だけでなく、ラジオ波焼灼療法や、肝動脈塞栓療法も考慮される。
「腫瘍が複数ある患者では、切除後にも別の腫瘍を発症することが多い。そのため切除による肝機能低下、胆汁の漏れ、感染症といった手術のリスクと、治療で期待できる効果を個々の患者の状況に応じて天秤にかけ、手術をするべきか否かを検討しなければならない」とガイドライン作成に携わった日本大学医学部附属板橋病院消化器外科の高山忠利教授は解説する。
切除では、大腸といった消化管で吸収された栄養分を血液に乗せて運んでくる門脈の流れにそって肝臓を8つに分け、ブロックごとに取り除く。肝臓は門脈以外にも大小さまざまな血管が走るいわば血管の塊だ。1つ間違えると大量出血になりかねない。肝切除は、丁寧さと緻密さが求められるため、手術に数時間、時には10時間以上要する。専門性の高い手術だけに、切除は肝臓に詳しい肝臓外科医のいる施設を選びたい。
日本肝胆膵外科学会では2008年に「高度技能医制度」を発足。HP上で肝胆膵の手術実績のある高度技能医修練施設とともに高度技能指導医などを告知している。肝胆膵とは、胆管で繋がっている肝臓、胆嚢、胆管、膵臓の総称。四分野すべての外科手術を手掛ける施設もあるが、多くは得手不得手があり、修練施設のなかから、肝切除の実績のある施設を探し出す必要がある。そこで活用したいのがDPC(原発性肝がん、転移性肝がん、肝内胆管がんを含む)の手術数だ。
上位の東京大学医学部附属病院、日本大学医学部附属板橋病院ともに、患者が直接訪問するケースもあるが、発がんまで肝炎や肝硬変の治療をしていた内科医からの紹介が圧倒的に多い。
「手術数は紹介してくれる内科医からの信頼のバロメーター」と東京大学医学部附属病院肝胆膵外科・人工臓器移植外科の國土典宏教授のいうように信頼がなくては、患者を紹介しないだろうから、ランキングは病院選びの参考になるといえそうだ。
肝切除のなかでも特に難易度が高いとされる肝臓の深奥にある尾状葉肝がんの単独切除を世界で初めて手掛けた日大の高山教授のもとには、尾状葉の切除依頼の紹介が全国から集まる。
肝がんでは、全身性化学療法や放射線治療はあまり行われない。ただ、がん細胞を狙い撃ちする分子標的薬ソラフェニブ(商品名ネクサバール)が09年5月に保険適用となり、確実に治療実績をあげている。この薬は全身の状態を低下させずに、がん細胞の増大を抑制する効果があるとされる。