今では2番目に多いがんに
大腸は盲腸・結腸(S状結腸など)・直腸からなる。大腸がんは、かつて日本人には少なかったが、食生活の変化などに伴って増加し、今では2番目に多いがんになっている。死亡率は近年、頭打ちになったが、それでも、全国で年間に4万人以上が死亡している。また、大腸がんの発生頻度を大腸の部位別に見ると、直腸とS状結腸が最も多く、次いで上行結腸となっている。
大腸がんは胃がんと同様に、早期であれば、内視鏡で治療することができる。具体的には、大腸の粘膜と粘膜下層にとどまっているがん(より正確にいえば、粘膜下層の1ミリまで)であれば、リンパ節転移はまずないと考えられるため、内視鏡治療の対象になる。
大腸がんの内視鏡治療で行われる切除法には、ポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の3種類がある。
ポリペクトミーは、隆起したキノコ状(ポリープ型)の病変にワイヤをかけて焼き切る治療法である。EMRは、病変周辺部の粘膜に生理食塩水などを注入して浮き上がらせ、ワイヤをかけて、高周波の電流で焼き切る。ESDは、電気メスで病変下部を剥離して取り除く。ポリペクトミー、EMR、ESDの順で、治療法が進歩してきた。
慶應義塾大学医学部腫瘍センターの矢作直久教授はそれぞれの特徴を次のように話す。
「隆起した病変であれば、ポリペクトミーで容易に切除できます。平坦な2センチ以下の病変なら、EMRで切除するのが基本的なやり方です。ESDはそれよりも大きな病変で検討することになります」
大腸壁は非常に薄く、大腸は曲がりくねっていて、その内ない腔くうは狭い。そうした特徴を持つ大腸をESDで治療するのはかなり難しい。そのため、大腸がんのESDに習熟している医師はまだ多くはない。それは「全国で年間、胃のESDは3万件ほど、大腸のESDは3000件ほど」(矢作教授)というESDの実施数にも表れている。
また、食道がんや胃がんに対するESDは保険が適応になるが、大腸がんに対するESDは先進医療の位置づけである。先進医療は登録した医療施設で登録した医師だけが患者の了承を得て行え、費用は患者の自費となる。
大腸がんに対するESDは、まだ課題が多いが、高い技術を持つ医師が行えば、患者のメリットは大きい。たとえば「これまでなら、外科手術を受けて人工肛門にならざるをえなかった直腸がんの患者さんも、ESDで治療できれば、人工肛門を回避できる」(矢作教授)という。
大腸がんを早期に発見し、早期に治療するため、40歳ないしは45歳以降は、年に1回程度、大腸がん検査(便潜血検査)を受けることを勧めたい。