鍵を握る神経物質セロトニン
相手を不快な気持ちにさせる言い方は、当然避けるべきだろう。しかし、ただやみくもに相手を褒めちぎればいいわけでもないらしい。
脳科学の研究では、褒められると気分が高揚し、神経伝達物質のセロトニンが増える説が唱えられている。興奮状態に導くノルアドレナリンやドーパミンとは異なり、セロトニンには、心を整える作用があり、不足すると鬱状態になるという。ただし、セロトニンが過剰に分泌されると、人は軽躁状態に。本人はハイな気分で心地よくても、過活動の状態が続いたり、場合によっては浪費したりして、周囲にとっては迷惑なことが多い。
「過剰に褒めちぎれば、人は暴走します。また厳しいことを伝える際、肝心な点に言及せず優しいことだけ言っていても効果はありませんよね。だから目的をはっきりさせたうえでバランスを考えながら、どんな言い方が適切か、常に判断する必要があります」
それでは、どうすれば適切な言い方ができるのか。フレーズの具体例は下の例の通りだが、共通するポイントをおさえていこう。
まずは「具体的な説明を入れること」だ。ただ相手に思いの丈だけをぶつけると、「怒っていた」「嫌そうだった」という感情しか残らず、内容が伝わらないことがある。叱るならどこを直してほしいのか、断るならどの部分ができないのか、具体的に伝える。褒めるときも具体的な指摘が入っていないと「気持ちがこもっていない」「おざなりだ」と、逆に不快な気持ちを与えてしまうことになる。
特に上司が部下に問題点を指摘する際は、感情をぶつけてしまいがちなので、具体的に指摘できるように問題を整理して一呼吸置いたほうがいいだろう。そして、そこに「なぜそうするべきなのか」という理由も添えられれば、納得感はより高まる。
また「時間を置く表現」も意識したい。自分にとって大切なものが否定されたり、要求が断られたりすることは、どうしても自己愛が傷つく。ただしそこで「検討してみます」「今回は難しいですが、次回はぜひお願いします」など、完全に否定するのではなく未来への可能性を残すことで、相手の傷を浅くとどめることができる。