OODAループが与えてくれるインパクト

このようなOODAループの戦略理論は、最低限の製品・サービスの試作品を作って顧客の反応を見る起業のプロセス「リーンスタートアップ」や、顧客の世界観を中心にデザインを再考する「デザイン思考」に発展しています。また、目標管理の手法としてVSA(Vision・Strategy・Activities Directions)やOKR(Objective and Key Result)などさまざまな名称で呼ばれています。

日本企業にOODAループの考え方が浸透していけばどう変わるでしょうか。

OODAループの考え方が浸透した企業であれば、「みる」のは競合他社のまねや自社のかつての栄光(前例)ではなく、現実世界の環境の変化です。そして、顧客が何を望んでいるのか「わかり」、顧客のほしい商品をほしいタイミングで提供することを「きめて」、「うごき」出すのです。また、潮目が変わり状況が大きく変化しつつあると判断すれば(「きめる」)、行動を「みなおす」こともためらいません。

PDCAはシリコンバレーでは使われない

クライアント先でOODAループの話をすると、優秀な従業員からは「はじめて戦略理論がしっくりしました」「これまで自分なりにやっていたのは、OODAループだったんですね」という声がでてきます。どうも今の日本企業は工場の管理ツールであるPDCAサイクルが創造的な経営の分野にも広がり、現場の従業員のレベルでは首をひねるケースに直面しはじめたようです。

PDCAとは、プラン、ドゥ、チェック、アクション(Plan-Do-Check-Action)の頭文字をとった、計画をもとに、行動し、チェックして、改善するという継続的改善手法です。PDCAは品質を高めることを要求される生産現場において重要とされ、統計的品質管理やISOのツールとして支持されてきたことは事実です。

しかしPDCAは心や感情などの人間的要素を排除して、計画が完璧であることを前提に従うことを求める一方で、環境の変化や想定外の事態、人間の仕事に対する愛着心などの「心理的な要素」への対応が後手に回ってしまうのです。このためPDCAはシリコンバレーをはじめとした海外企業では経営に使われていないのです。

PDCAの欠点を補完するにはOODAループの導入が最適です。経営のOODAループと工場のPDCAサイクルを連携させることで、環境に適した行動がとれることに加え、想定外の事態にも対処でき、失敗も回避できます。

入江仁之(いりえ・ひろゆき)
経営コンサルタント
米国シスコ本社の戦略担当部門マネージングディレクターとしてエコシステムの構築をグローバルで指揮。外資系戦略コンサルティングファームの日本・アジア代表を歴任。現在はアイ&カンパニー・ジャパン代表として、OODAループをはじめとする全体最適・自律分散の先進的な経営モデルの提言と導入を主導している。
(写真=iStock.com)
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