数多くのケア施設見学にも自分で行った
また、それとは別に、Xさんは、60代には福祉関係の学習グループに属し、数多くのケア施設見学も続けていた。
その中で、次の結論に達し、一時ケア施設探しを中断したものの、80代が間近になった78歳から、今度は本気で入りたい施設を探し始め、現在はその途中だと言う。
Xさん「ある特養を見学した時、そこの利用者さんが、『わしらがここの施設を出る時は死ぬ時だから』と言われてね。そんなのを聞いて、たしかに老人ホームというのは終身刑のような気持ちで入る所だと思って、一時探すのを中断してました。
でも、今、切羽詰まってきたんですね。物忘れがひどくなるし。80歳のここまで生きたら、ああ! 御の字よという気持ちになってきたんで、もうケア施設に入ろうかという気になって。78歳の時、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)へ見学に行った時には、身に沁みました。以前は右から左に通り抜けた説明が、ちゃんと骨身に響いてきました」
「老い」だけでなく「死に支度」も徹底するXさん
さらに、Xさんの場合、「死に支度」、つまり「終活」の仕方も徹底しており、話を聞きながら私は、「なるほどねえ」と何度も繰り返した。
その内容を、Xさん自身による「死に支度」の記録から見てみよう。
(1)63歳時。300万円の預金の通帳とカードを姉に託す。山登りなどをする自分が行き倒れになった時など、不慮の事故などに備える金として。
(2)75歳時。メモ類、上記通帳などを姉から甥へ引き継ぐ。高齢の姉に代わり、甥を主たる責任者に変更。
(3)75歳時。葬儀式場の予約。葬祭料24万円。甥とその妻、姉、私で下見し契約。
(4)78歳時。死後の始末、葬式、住居の始末、諸届は甥が責任をもって行うことを約束。通帳メモ類他の保管場所を甥に示す。尊厳死の宣言書は甥に見せた。さらに、いざという時のために自宅の合鍵も甥に預ける。
(5)80歳。X家の墓じまい。祖先の骨は姉の嫁ぎ先の「家」墓へ、墓じまいの代行を甥に依頼。墓じまいの延長で現在の住居の不用品、ごみ処理を甥が遂行。100万円。
(6)その他、白内障や他の病気で入院手術した際には、姉、甥、姪が保証人。手術前の説明も聞き、見舞いにも来た。その都度お金を支払う。