立ち止まって考えることの価値

この章(「五、ナポレオンと四人の少年」)には、ナポレオンが敵兵の勇敢さを賞賛した話のほかに、捕らわれの身となっても誇りを失わなかったナポレオンに、敵国であるイギリスの人々が敬意を表したというエピソードも描かれています。敵国人であったとしても、よいところはよいと認め、尊敬の念をもって接する必要があることを伝えたかったのだろう、と私は思います。

また、負けるとわかっていながらナポレオンは最後まで戦い続けたという話も、その裏には、世の中が大きな流れに呑まれていこうとしているとき、立ち止まって考え、流れに抵抗することも必要なのではないかということを伝えたかったのだろう、と私は読みました。だからこそ、こんな文章でノートを締めくくっているのだと思います。

君も大人になってゆくと、よい心がけをもっていながら、弱いばかりにその心がけを生かし切れないでいる、小さな善人がどんなに多いかということを、おいおいに知って来るだろう。世間には、悪い人ではないが、弱いばかりに、自分にも他人にも余計な不幸を招いている人が決して少なくない。人類の進歩と結びつかない英雄的精神も空しいが、英雄的な気魄を欠いた善良さも、同じように空しいことが多いのだ。

君も、いまに、きっと思いあたることがあるだろう。(同前)

悪いことだとわかっていても、声を上げない、“小さな善人”であることは、仕方がないでは済まされない、ということです。

▼『君たちはどう生きるか』の時代
●1923(大正12)年:関東大震災
●1927(昭和2)年:金融恐慌
●1931(昭和6)年:陸軍満州派遣軍(関東軍)が暴走、「満州事変」起きる
●1936(昭和11)年:陸軍将校らによるクーデター未遂、「二・二六事件」起きる
●1937(昭和12)年:『君たちはどう生きるか』出版。日中戦争始まる
●1941(昭和16)年:太平洋戦争始まる

本文は『池上彰 特別授業「君たちはどう生きるか」』(NHK出版)より抜粋・再構成

調査概要●2009年から2018年までのプレジデント誌で実施した読者調査(計5000人)に、今回新たに弊誌定期購読者、「プレジデントオンライン」メルマガ会員を対象にした調査(計5000人)を合算し、「読者1万人調査」とした。ランキングのポイント加算にあたっては、読者の1票を1ポイント、経営者・識者の1票は30ポイントとした。経営者・識者ポイントは、弊誌で過去に取材した経営者、識者の「座右の書・おすすめ本」と、今回取材先に実施したアンケートによるもの。続編やシリーズに分散した票は合算(例えば、『ビジョナリー カンパニー』に10票、『ビジョナリー カンパニー2』に20票入った場合は、『ビジョナリー カンパニー』に30票とした)。また、同一著者(例えば、稲盛和夫氏、司馬遼太郎氏、百田尚樹氏)による本は票数の多い書籍を「ランキング入り」としている。結果として、時代の流行などに左右されない良書が多数ランクインできたもようだ。

池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト
1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHKに入局。報道記者、キャスターとして活躍。「週刊こどもニュース」のお父さん役で大人気に。2005年に退職。名城大学教授、東京工業大学特命教授などを務める。『おとなの教養』『はじめてのサイエンス』『見通す力』『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など著書多数。
(撮影=原 貴彦、市来朋久 写真=毎日新聞社/AFLO)
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