今年1月、香港のオークションで、サントリーのウイスキー「山崎50年」が1本3250万円で落札された。なぜそんなに値が上がったのか。その背景には、国産のミズナラ樽から生まれる原酒を使った「山崎」の魅力が、世界で認められたことがある。一般的なホワイトオーク樽ではなくミズナラ樽を使うという英断には、同社の「やってみなはれ」の精神があった――。

ハイボールの流行が再び

今年の1月27日、サザビーズが主催した香港のオークションで、サントリーのシングルモルトウイスキー「山崎50年」が1本、3250万円で落札された。オークションに出たジャパニーズウイスキーの落札額としては過去最高額だ。

山崎蒸溜所は天王山のふもとにある(撮影=熊谷武二)

サントリーのウイスキー出荷額はピークだった1983年が約3000万ケースで、現在は約1000万ケース。84年からは需要が下がり続け、いちばん少なかった2008年の出荷は約470万ケースにすぎない。やっと需要が回復してきたのは翌09年からだ。

需要が低迷していた間、同社は在庫を増やさないよう、生産調整をしなければならなかった。しかし、同社の努力もあり、ハイボールという飲み方が再び流行るようになった。その少し前から「山崎」「白州」「響」といった高級ウイスキーが世界の酒類コンペティションで入賞を続けた。さらに、14年、NHKの朝ドラ「マッサン」ではウイスキー造りの現場が舞台となり、世の中にウイスキーの魅力が伝わっていった。

「まずはお客さまに飲んでいただく」

こうして、ウイスキーは国内、海外ともに人気が高まり、「山崎」をはじめとする高級ウイスキーは品薄状態になったのである。原酒を樽に詰めて長期間、熟成するウイスキーは人気に火が付いたからといって、すぐには増産できない。今、同社の山崎蒸溜所はフルに操業しているけれど、それでもすぐにウイスキーがマーケットに出てくるわけではない。

飲食店やバーはサントリーの高級ウイスキーを仕入れるのに非常な苦労をしている。様子を見た同社の社員は「まずはお客さまに飲んでいただく」姿勢をくずさない。商品が売れないのは企業にとって死活問題だが、売れすぎて、消費者が買うのに苦労する事態も決して喜ばしいことではない。

では、そんな人気商品の生産現場はどのような状況になっているのだろうか。どういった言葉を大切にして、ウイスキー造りに励んでいるのだろうか。