(1)心からのコミットメントを示す
リーダーは顧客を見つめ続けることに本気でコミットしていると一般社員が感じるならば、彼らがその実践に向けて努力する可能性は高くなる。
組織がマネジャーのコミットメントを促し、それを目に見えるようにする1つの方法は、経営幹部チームのすべてのメンバーが、直属の部下に顧客と頻繁に接触するよう命じることだ。マグレイスは、大手金融サービス会社のクレジットカード部門のトップが、直属の部下に、この部門の月次会議で顧客から最近学んだことを少なくとも1つ発表するよう要求した例を挙げる。「会議を何度か続けるうちに、部下は彼がどれほど真剣かを理解し、それは会社の他の部門にも徐々に伝わっていった」と、マグレイスは語る。この幹部は、十分な顧客情報を提供することを怠っていたマネジャーを解雇することまでしたという。
もう1つの方法は1部の消費財企業が行っているもので、上級マネジャーが少なくとも月に1度はスーパーの店頭を訪れて、顧客が自社製品にどのような反応を示しているかをまる1日観察することだと、マグレイスは言う。
もちろん、顧客重視に対するコミットメントを示すということは、上級マネジャーが毎年一定の日数を現場で過ごさねばならないということではない。コミットメントは、組織の優先課題を誰1人疑わなくなるよう、徹底的にメッセージを伝えるという形でも示すことができる。
(2)何を失うことになるのかを社員に理解させる
社員を参加させるためには、顧客重視の姿勢を怠ったら何を失うことになるのかを理解させることが肝要だ。自分のパフォーマンスが顧客と会社に、どのような影響をもたらすのかを、すべての社員が理解する必要がある。
「社員は自分の行動とより長期的な結果との関連を理解する必要がある」こう語るのは、ハーバード大学経営大学院ベーカー基金記念講座教授で、『バリュー・プロフィット・チェーン――顧客・従業員満足を「利益」と連鎖させる』の共著者、W・アール・サッサー・Jrである。
この関連を明確にするために、社員の行動を引き出せるような説明の仕方をしよう。一例を挙げると、ある自動車販売会社の社長は、顧客1人の平均生涯価値を33万2000ドルと算定して、社員に、顧客に対応するときは必ずその数字を思い浮かべるよう要求した。なぜか。それによって社員は、一見重要ではなさそうな行為でも、それを卓越した形で遂行しなければどれだけの額を失う恐れがあるかを理解できるからだ。「顧客がオイル交換にきたとき最高のサービスを提供しなかったら、それは33万2000ドルの売り上げを危うくするということだと、社員は理解した」と、サッサーは語る。