[1] 目的を明確にし、一貫性を持たせる──しかもエキサイティングに

組織内のイノベーションと変革を促すにあたってはディシプリン(規律)がある、とヤマシタは言う。トップの人間は、自分たちがすべての答えを持っているわけではないことを認め、また、何に向かって仕事をしているのか社員がはっきり理解できるよう、企業の目標について説得力のあるビジョンを設計すべきである。

「マネジメントはそれを単純明快で人間味のある言葉で表現しなくてはいけない。目指すべき北極星は何か。自分たちの目的は何か。他社と差をつけ、社員が自分の仕事に情熱を持てるようにするために、自分たちは何をしていくのか」とヤマシタは語る。「次に、その内容を直感的に理解できるように伝えなくてはいけない」。

その1例として、ヤマシタは、オフィス家具製造・販売会社、ハーマン・ミラーとの最近のプロジェクトについて語ってくれた。同社はコスト削減、レイオフ、工場閉鎖によってビジネス環境の変化に対応してきたが、経営陣は組織を活性化して新しいイノベーションを引き出したいとも考えていた。

そこで、ヤマシタ・パートナーズ社のヤマシタと同僚たちは、ハーマン・ミラー社の幹部チームと何度も会議を開いて、まず「北極星」を決め、それから20枚の「ストーリーボード」──同社の沿革や強み、目標市場、目指すサービス内容などを記した巨大ポスター──を作成した。このボードを中心に、プロジェクトのアイデアやチームレベルの目標設定について話し合った。そのうえで「現在の仕事のうち、どれくらいが本当にこれらの目標に向かっているか」と社員に尋ねたのである。

このプロセスによって社員たちは、「普段は話さないことを話すようになる」とヤマシタは言う。「ハーマン・ミラーではセッション後に、社員たちが『あの人にあれほど専門知識があるとは知らなかった』とか、『あれほど斬新な考えができるとは』とか、『アイデアにあれほど情熱を傾ける人だとは』などと口々に語っていた」。

[2] チャネルを開放し、懐疑論者も巻き込む

ニューヨーク市に本社を置く世界最大の医薬品メーカー、ファイザーの原動力はイノベーションだ。同社の幹部は向こう5年間に15の新薬を発売すると豪語している。アイデアやコミュニケーションが流れ続けるようにするため、ファイザーは定期的に研究者のセッションを開く。そこでは科学者たちが、プレゼンテーション形式で自分の研究を同僚と共有する。このセッションは異なる事業に従事する社員たちが「他の現場で学習されたことを学び、自分の現場に応用」できるようにするためだ、とディスカバリー・リサーチ部門ヴァイス・プレジデント、ジェームズ・ブリストルは語る。「単独で仕事をしている研究者は、他の研究者とつながっている者ほどイノベーティブになれない」。

ヤマシタがIBMで行ったように、互いの仕事や能力について知らない人々を一堂に集めることは、新しいアイデアを引き出す強力な方法だ。そうしたイベントは懐疑論者も巻き込むことができる。

部内の会話を生み出すコンペを実施することも、イノベーションを引き出す一つの方法だ。ロイヤル・ダッチ・シェルは5年前、事業戦略家ゲーリー・ハメルの助けを得て、「ゲームチェンジャー」と呼ばれるアイデア市場を新たにつくった。全部門のマネジャーに、新事業のアイデアを社内の他のマネジャーで構成される委員会に提出するように呼びかけた。そこでアイデアは議論され、質疑が飛びかう。毎年、約150件の新事業が「ゲームチェンジャー」の投資を受け、うち10%が市販段階までこぎつけているという。