誰のための「コーチング」なのか? 日米の大きな違い

筆者は陸上競技をメインに取材しているが、強豪チームといえども、監督・コーチの指導法に疑問を持つことが少なくない。最も強く感じるのは、「誰のための指導なのか?」ということだ。

監督・コーチ本人が勝ちたいのか。それとも選手を勝たせたいのか。所属する会社や大学から勝利を求められるケースもあるし、反対に高校や大学の在学中に勝てなくても、将来につながる指導をしたいと考えている監督もいる。

指導者の思いは微妙に違うが、日本のスポーツ界は「指導者>選手」という構図が一般的だ。そうした環境にスポーツ界にとどまらず、日本人の多くが“歪んだ構造”に麻痺している可能性は高い。なぜなら、米国では「指導者=選手」というフラットな関係が普通だからだ。

10月7日、東京五輪「男子マラソン」の星である大迫傑が世界最高峰シリーズ「ワールド・マラソン・メジャーズ」のシカゴマラソンで2時間5分50秒を出し、3位に入った。設楽悠太(26歳=ホンダ)が今年2月につくった2時間6分11秒の日本記録を更新し、日本実業団による報奨金1億円を手にした。

この大会の前に、大迫のコーチであるピート・ジュリアン氏に話を聞く機会があった。日米の指導スタイルに大きな差を感じたので、彼の言葉を紹介したい。

報奨金1億円大迫選手を育てた米国人コーチの手腕

大迫は早大時代に箱根駅伝で活躍するなど、学生時代から日本トップクラスのランナーだった。大学卒業後は、日本の実業団チームに進むも1年で退社。2015年春から米国に練習拠点を移して、さらなる高みを目指している。その中でコーチのジュリアン氏はどんな指導を心がけてきたのか。

右端が、大迫選手のコーチ、ピート・ジュリアン氏。左隣は、東洋大・酒井俊幸監督。(撮影=酒井政人)

「選手とコーチの関係は日本と違いますね。アメリカでは『パートナー』という意識が強い。トレーニングするときも、次は何をしようか? とお互いに意見を出し合い、戦わせながらメニューを調整しています。アメリカでは上下はなくて、対等な関係が一般的です。文化の違いもあるので、どちらがいいというのはありませんが、私も学生時代はそういうコーチングをされてきましたし、そのやり方しか知りません」

日本の場合は、「俺の言う通りにやればいいんだ!」という指導者が少なくない。特に高校、大学の指導で実績を積み上げてきたタイプは自分のやり方に自信を持っているせいか、選手たちの声にあまり耳を傾けようとしない。それどころか、自分のやり方を少しでも乱す選手がいれば気に入らないのだ。

その結果、パワハラまがいの指導が行われている。そういう監督・コーチのもとで過ごすと、選手たちは「自分で考える力」を養わなくなる。常に監督の顔色をうかがうため、選手として自立できなくなってしまう。