イスラエル、サウジアラビアと通じている

トランプ政権の核合意離脱、イラン制裁はアメリカの国内問題という見方もできる。トランプ大統領はユダヤ系の大金持ちから巨額の献金を受けている。娘のイヴァンカ氏もその夫のクシュナー氏もユダヤ教徒で、トランプ政権はユダヤロビーの影響力が非常に強い。イスラエルの在アメリカ大使館をエルサレムに移転して、エルサレムを首都認定したトランプ大統領をユダヤロビーは絶賛した。イスラエルにとって中東最大の敵は大国イランだ。イスラエルのネタニヤフ首相はイランが秘密裏に核開発を進めていると確信的に疑っていて、イランの核の脅威を取り除くことは安全保障上きわめて重要と考えている。だからネタニヤフ首相はトランプ政権の核合意離脱を強く支持した。中間選挙をひかえたトランプ政権としても、国内のユダヤロビーに対する大サービスになる。

もう1つ、アメリカの核合意離脱を歓迎した国が、サウジアラビアである。イスラム教スンニ派の大国であるサウジが仮想敵国にしているのは、イスラム教シーア派の大国イランだ。宗派対立という構図を抱えながらも、サウジとイランは対立と接近を繰り返してきた。しかし、イラク戦争でスンニ派指導者だったサダム・フセイン大統領(当時)が排除されて、戦後イラクに多数派のシーア派政権が誕生したことで、サウジとイランの関係は決定的に悪化する。スンニ派指導者のフセイン大統領が曲がりなりにも治めていた大国イラクが消滅したために、サウジはシーア派国家と直接国境を接する状況になり、危機感を大いに強めたのだ。これまでサウジとイランが直接戦火を交えたことはないが、レバノン、イラク、シリアなどで代理戦争を展開してきた。現在の主戦場はイエメンで、イランが後押しするシーア派武装組織のフーシ派とサウジが主導するアラブ連合軍が激しい内戦を繰り広げて泥沼化している。

ところで、もともと石油権益を求めるアメリカとサウジは同盟関係にあったが、オバマ前大統領がイランと核合意を結んだことで両国関係が冷え込んでいた。トランプ大統領は就任後、最初の外遊先にサウジを選んで関係修復を図り、今やサウジの揺るぎない友好国になっている。近年、高齢のサルマン国王に代わって、サウジの権力を掌握したのがムハンマド皇太子だが、トランプ大統領の娘婿クシュナー氏と非常に関係を深めている。エルサレムへのアメリカ大使館移転問題で、本来ならアラブの盟主であるサウジは大反対の声を上げるべきだが、何も反応を示さなかった。クシュナー氏がムハンマド皇太子から「反対しない」という言質を取っていたからだと言われているし、その後パレスチナなどが反発して手がつけられなくなる、と言われていたが、今のところ小康状態を保っている。つまり、イスラエルとサウジとトランプ政権は完全に気脈を通じていて、イラン封じ込めを共通目標にしているということだ。

そのイランはアメリカによる制裁再開で通貨が暴落し、物価も上昇、国民生活に影響が出ている。ロウハニ大統領に対する反発も強まっていて、これが民衆蜂起による政権交代につながる可能性もある。あるいはイランがロシア、トルコ、中国などに接近して、アメリカの被制裁国同士で関係を深めていくことも考えられる。トランプ大統領のアメリカは中東の火薬庫の視界を一気に不透明にしたが、仲良しイスラエルとサウジにそこまでサービスする価値があるのか、米政権に賢者が残っていれば考えてもらいたいものだ。

(構成=小川 剛 写真=時事通信フォト)
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