※本稿は、斉藤章佳『万引き依存症』(イースト・プレス)の第2章「被害者が見えづらい深刻な犯罪」を再編集したものです。
万引き犯も驚く、初検挙時の処分の軽さ
「逮捕されなければずっと続けていましたか?」
これは当クリニックに通院する万引き依存症の人たちに対し、私が初診時に必ず投げかける質問です。彼らは決まって「はい」と言います。これはほかの、犯罪行為になる依存症にも共通する現象です。薬物も痴漢もほとんどの人が同じことを言います。
自分ではもうやめられない。家族や店舗の人の言葉でやめられるなら、とっくにやめている。薬物に依存していたある著名人が逮捕されたとき「(逮捕に)来てもらって、ありがとう」と言ったと報道されましたが、同じ心境だったと打ち明ける依存症者は多数います。もうどうしていいのかわからないまま犯行を重ね、それがやっと逮捕という形で止まる。そのことにほっと安心するのだそうです。
万引きという、他者への加害行為をしておきながら、「ありがとう」も「ほっとする」も、ずいぶん身勝手な考えです。けれど、これが彼らの本音なのです。
意志の強さは関係ない
万引き依存症に陥ると、毎日のように盗みます。日常のなかで、盗んだものを目にしない日はありません。そんななかで「これまでの自分から変わる」というのはとてもむずかしいことで、意志が弱いとか強いとかはほとんど関係ありません。
まずはずっと続いてきたその日常を断ち切ること。それが彼らを「盗んでいた毎日」から「盗まない毎日」へと変容していく第一歩です。
ではここで、全件通報をして漏らさず逮捕することは、有効かどうかを考えてみましょう。逮捕されないかぎり万引きを繰り返す人たちがいることを鑑みると、全件通報は有力な策のひとつだと思います。しかし店舗側の負担を考慮すると、現実的にはむずかしいでしょう。
そして、全件通報したところで、逮捕、起訴までいかなければ、現状ではあまり意味がないとも感じます。〈図1〉の調査では、はじめて検挙されたときの処分に対し、どの世代も「意外と軽かった」、「なんとも思わなかった」を合わせると半数以上を占めていることが明らかになっています。クリニックでヒアリングしても、だいたいの人が最初の裁判でも必ず執行猶予がつくことを知ったうえでやっています。