逆説的ですが、彼らにとって刑務所ほど安全な環境はありません。そこから社会に戻ったとき、彼らが薬物に耽溺するに至った根本的な問題が解決しておらず、薬物が入手できる環境にあれば、出所時の「もう二度と手を出さないぞ!」という固い決意が破られるのは時間の問題です。一度依存症になると、意志の力ではどうにもならないのです。

万引きに依存していた人たちも、「これでもう盗らない自分になれる」と思うそうです。ですが、スーパーもコンビニもないところで得た自信は、いわゆるシャバに戻ったときにほとんど意味をなしません。

出所してから再犯するまでにかかる時間を調査した結果、ほとんどの人が1年以内に再犯しています。ですがこれは検挙された万引きであって、出所してからそれまでのあいだにどれほどの盗みを重ねてきたかは、決して表に出てきません。「お店で捕捉されたけど警察に通報されなかった」「お店の人に見つかってすらいない」だと、それは再犯にカウントされないからです。

罰を与えるだけでは止められない

元々が真面目な性格の人たちなので、刑務所では模範囚。でもそれで「盗まない自分」になったわけではありません。社会に戻り、盗める環境になったから盗んだ。刑務所のなかで依存症はよくも悪くもなっていなかった……というシンプルなお話です。

元裁判官という経歴をもつ知り合いの弁護士から、「この人を刑務所に行かせても、出たらまたやるんだろうなぁ」と思いながら有罪判決を下していた、という話を聞いたことがあります。おそらく、検察官や弁護士など、窃盗の裁判に関わる人みんなが同じことを思っているでしょう。

いまの日本の司法にはそれ以外の選択肢がありません。万引きがやめられない人たちと接している人ほど、「罰を与えるだけでは、彼らを止められない」ことをよく知っています。