――しかし、簡単にコストを末端価格に転嫁できる状況ではありません。
新技術開発等の企業努力でコスト上昇分を吸収することはメーカーの責務です。しかし、今回のように価格変動が大幅で急激だと企業努力にも限界があるため、消費者にもご負担いただかねばなりません。ただ、値上げする場合でも、同時に商品価値を上げることができれば消費者の納得を得られやすくなります。
昨年から今年にかけて、当社では各商品についてこのような努力を続けてきました。例えば「ほんだし」は原料のかつおぶしの見直しや乾燥工程の新技術導入等に取り組み、実質的な値上げを行いつつ商品価値を向上させ好評を得ています。
――そうした努力や工夫を行う人材は、どのように育成されていますか。
当社では求める人材像を「独創性の重視」「地球規模の発想」「共に働く喜び」の3項目からなる「味の素人材バリュー」として打ち出しています。この3つを自分の中で育ててください。そうなれたら、「あなたは、味の素の『あしたのもと』です」。当社へ入社する人たちにはそうお伝えしています。
――「味の素人材バリュー」はどのような経緯で策定されたのですか。
人材バリューは決して机上で整理したものではなく、味の素100年の歴史の中で先輩たちから代々受け継がれてきたDNAをまとめたものです。
「独創性の重視」について言えば、そもそも味の素の歴史は池田菊苗博士が「昆布で出汁を取るとなぜうまくなるのか」との疑問からグルタミン酸を発見するという創造的な研究から始まりました。
しかもその翌年の1909年には、創業者の鈴木三郎助が事業化に取り組み始めています。どうなるかわからないような物質の事業化自体、パイオニア精神あふれる行動ですし、食品の加工原料ではなく「卓上の調味料」というコンセプトで売り出したことも独創的でした。
一方、創業の翌年には台湾へ売り込みに行っていますし、17年にはニューヨーク事務所を開設しています。このように「地球規模の発想」も創業者たちから綿々と受け継がれたものなのです。
そして、こうした大きな仕事は1人ではなしえません。ある人は新技術を開発し、ある人は新しいビジネスモデルを考え出し、ある人は未開の地へ売り込みに出かける――。そんなみんなの努力を結集してこそ優れた仕事ができ、「共に働く喜び」がそこに生まれます。
1人でできることなどたかが知れています。どんなに個人として優秀でも、仲間を思いやれない人であれば当社では必要ありません。