そのために画商は美術に関する知識と見識を深める努力をしなければならないし、作家自身の「コンテクスト」を探る必要があります。作家がどのような人生を歩み、その経験が作風にどう反映しているか。何に挑戦し、作品にどんな思いを込めているのか――とことん語り合って探っていきます。

徹底的にやらないと顧客に納得のいく説明はできないし、作家自身も成長しません。

作品を買うことで、美術の世界が見える

美術の世界に足を踏み入れたいのなら、まずは5万円くらいで何か作品を買ってみることです。画廊をたくさん回って、あなたが本当に気に入る作品を探してみてください。

まずは無理のない金額で好きな作品を買ってみる。作家の「コンテクスト」がわかると、他の作品を見る「基準」ができる。瀧本光國氏の作品で、予算5万円で買えるのはこの「懐中」像(中)。優れた木彫を創作する瀧本光國氏の作品。

よく「画廊は入りづらい」と言われますが、それはモノを売っている店に買う気がないのに立ち入る気おくれがあるからではないでしょうか。

「気に入った作品があればいつでも買うぞ」というつもりなら、あなたは客なのですから怖気づく必要などありません。

いい作品があっても衝動買いはせず、画商に作家や作品の「コンテクスト」を、納得するまで聞いてください。あなたは顧客として、いくらでも画商に問うていいのです。

もし、値段を聞いて手が出なければ「この作家の他の作品で、この予算で買える作品はないだろうか?」と聞いてみましょう。画廊で作品を値切るのは、あまりお勧めできる行為ではありません。

そして作品を手に入れたら友人や同僚に見せて、忌憚のない意見を聞いてみる。もしかしたら「これがそんな値段がするの!?」「バカだな、そんな無駄遣いして」と言われるかもしれません。そうしたらあなたは、画商から聞いた知識に自身の思いを織り交ぜて、その作品の「コンテクスト」を自分の言葉で語るのです。

美術作品を前にすると、人は豊かで建設的な議論ができるものです。その語らいこそがあなたの人間性を鍛え、感性を磨き、美術作品を“見る目”を養うことにつながります。