自分たちが「ずれた」状況に陥っていないかどうかを点検するのに、いい言葉があります。「必要悪」という言葉です。冷静に見れば「悪」なのに、「これは仕方なかった」とか「このためにはこうする必要があった」など、自分たちの行為を正当化しようとする時に使われやすいこの言葉や考え方が出てきたら、要注意です。

間違いを軌道修正できない組織の共有点

もう1つ、私が体験した事件、そして最近のいくつかの不祥事を見ていて強く感じることがあります。それは、「間違い」を軌道修正することができにくい組織には、共通点があるということです。

「権力や権限がある」
「正義のため、公のために仕事をしているとのプライドがある」
「機密情報や個人情報を扱うなど情報開示が少ないため、外からのチェックが入りにくい」

村木厚子『日本型組織の病を考える』(角川新書)

財務省、防衛省、検察、警察などが典型です。マスコミや大学、病院など「先生」と呼ばれる職種も危ない。

こうした組織は、性格上、「建前は守らなければならない」「失敗や間違いは許されない」という意識になりがちです。世間もそれを期待します。

検察はその典型でしょう。正義の味方であり、世間の期待も大きいから、失敗や間違うことはできない。起訴したからには絶対に有罪を取らなければいけないと思う。だから無理を重ねる。「取り調べは常に適正に行われている」という建前に固執して、後で間違ったとわかっても引き返せない。そして失敗や間違いを組織ぐるみで隠し、かばう。失敗を認めようとしないから教訓が共有されず、同じような不祥事が繰り返される。

また、失敗や間違いが起きてしまった時、「なかったことにする」「見なかったことにする」というようなことが行われ、それがまたコトを大きくします。財務省や防衛省の文書の隠蔽、廃棄がそうですし、事後対応のまずさは日大アメフト部の会見などにも見られました。

人間は間違うものだし、弱いものでもあるから、現実社会では「あってはならないこと」が起こります。間違いは避けられない。それが起こった時にどうやり直しをするか、傷を広げないか、同じ間違いを再び犯さないかが重要なのだと思います。

村木厚子(むらき・あつこ)
津田塾大学 客員教授。1955年高知県生まれ。高知大学卒業後、78年、労働省(現・厚生労働省)入省。女性や障害者政策などを担当。2009年、郵便不正事件で逮捕。10年、無罪が確定し、復職。13年、厚労事務次官。15年、退官。困難を抱える若い女性を支える「若草プロジェクト」呼びかけ人。累犯障害者を支援する「共生社会を創る愛の基金」顧問。伊藤忠商事社外取締役。津田塾大学客員教授。著書に、『あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ』(日経BP社)、『私は負けない 「郵便不正事件」はこうして作られた』(中央公論新社)などがある。
(写真=iStock.com)
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