リーマンショック後、中国政府は4兆元(当時の円貨換算額で57兆円程度)の景気対策を実施した。この結果、インフラ開発などが進み、一時的に景気は上向いた。同時に、この景気対策は、地方政府や民間企業の過剰債務問題につながった。そのため、近年、中国政府は過剰な供給能力のリストラを重視しつつ、状況に応じて経済政策を運営してきた。
党大会終了後に公共事業を停止
2017年以降の固定資産投資の推移を振り返ると、秋口までは公共事業を通した景気支援が重視された。特に年の前半、インフラ開発などに関する固定資産投資が増えた。その理由は、2017年10月の党大会に向けた社会心理のサポートだ。昨年の党大会は、習近平国家主席の長期的な支配体制を整備するために重要だった。この間、中国人民銀行は金融政策を中立的に運営し、民間企業や家計の債務が膨張しないように努めた。
党大会終了後は、財政を中心にやや引き締め気味に経済政策が運営された。中国政府は債務の膨張を抑えるために、一部の公共事業を停止した。
加えて中国政府は、環境対策を重視している。それも、経済成長率を鈍化させた一因だ。政府が大気汚染や水質汚染を放置すると、国民の生命に甚大な影響が及ぶ。昨年、中国政府は、大気汚染問題の軽減などのために、石化プラントの操業停止を命じた。冬場には、一時的に操業がストップしたプラントの数が、数万カ所に達したと見られている。
その結果、4~6月期の成長率は下振れた。この状況は、中国の景気に息切れ感が出始めたことと言い換えられる。中国の不動産市場で発生しているバブルを鎮静化しつつ、景気の軟着陸を目指すために、政府は債務の抑制を重視せざるを得ない。景気対策が発動されたとしても、大規模なものを打ち出すことは難しいだろう。景況感は悪化しやすい。
先行き懸念を高める米中の貿易戦争
加えて、3月以降、米国のトランプ大統領が、中国からの輸入に制裁関税を課すなど“貿易戦争は良いこと”と考えてきたことも、中国経済の先行き懸念を高めている。