米国と中国の経済的な相互依存度は高い

ロンドンやニューヨークで資金運用を行うヘッジファンドのファンドマネージャーらと話をすると、米国が中国などに対して仕掛ける貿易戦争が、世界経済最大のリスク要因との指摘が多い。彼らが不安視しているのは、どの程度まで米国が中国への制裁措置を強化するかがわからないことだ。

7月上旬、トランプ大統領は米国が中国から輸入する全品目に、制裁関税の範囲を拡大するとの考えを示した。実際にそこまで制裁が強化されると、中国経済には無視できない影響が及ぶ。それは、米国経済にとってもリスクだ。たとえば、米アップルが販売しているiPhoneは、鴻海精密工業(ホンハイ)の子会社であるフォックスコンの中国工場で組み立てられている。それを、アップルは米国をはじめ、世界各地で販売し収益を得ている。米国と中国の経済的な相互依存度は高い。

トランプ大統領は、ロシアゲート疑惑への批判が高まることを回避したい。そのため、対中制裁など通商政策を通して人気を集めようとする発想は強まるだろう。同氏がその考えを実行に移すとの懸念が高まれば、中国経済の先行き懸念は追加的に高まるはずだ。

日本の景気回復にも「下方リスク」となる恐れ

その場合、日本経済の下方リスクも高まると考えた方がよい。わが国の経済は、中国を中心に海外の需要に支えられ、緩やかに回復してきた。今後もその状況が続くとは言いづらくなっているということだ。

すでに、わが国から中国への建設機械出荷額の伸び率は鈍化している。貿易戦争への懸念から世界の自動車メーカーの生産能力増強への取り組みにも延期の動きが出始めた。そのため、ファナックなどが手掛ける産業用ロボットや、国内企業が手掛ける半導体製造装置の需要動向を慎重に考える経済の専門家もいる。

経済環境が悪化すれば中国政府は景気刺激策を強化するだろう。同時に、中国政府は、債務削減などの構造改革も進めなければならない。長期的な経済安定のためには、構造改革が優先されると考える。その結果、徐々に、中国の景気のモメンタムは弱まる可能性がある。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
(写真=iStock.com)
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