トランプ政権が重視する貿易戦争は、2つに分けて考えるとよい。それは、中間選挙に向けた人気取り政策と、米中の覇権国争いだ。11月の米中間選挙が終われば、前者を理由とする各国と米国間の通商面の摩擦は解消に向かうかもしれない。一方、米中の覇権国争いは長期的な変化である。それは、選挙の後も続く可能性がある。

中国は2015年に「中国製造2025」と呼ぶ産業施策を打ち出している。中国はIT先端分野を中心に、最先端のテクノロジーを自国内で生み出す能力を手に入れ、アメリカ、日本、ドイツのような「世界の製造強国」となることを目指している。「中国製造2025」はその第1段階で、次世代情報技術やロボットなど10の重点分野を設定し、製造業の高度化を目指す。いわば中国による覇権の強化ともいえる長期戦略だ。

それを食い止める手始めとして、米国は中国の知的財産権の侵害を問題視した。その1つが、中国のスマートフォン製造大手・中興通訊(ZTE)への制裁だった。4月に実施したこの制裁は7月13日に解除された。だが、現地時間8月13日、トランプ大統領は国防予算を定める国防権限法に署名している。この法律の中には、米政府機関関係者のZTEおよび華為技術(ファーウェイ)製品の利用を禁じる内容が盛り込まれている。

貿易戦争では中国が不利

当面、米中間の貿易戦争を考える上で注目されているのが、米国が、どれだけの中国からの輸入品目に制裁関税を課すかだ。米国の中国製品の輸入額は約5000億ドルである。一方、中国の米国製品の輸入額は1300億ドル程度である(ともに年間の取引額)。

月内にも、トランプ政権は第3弾の対中制裁関税を発動する可能性がある。その規模は2000億ドルとみられる。関税率の引き上げ幅は、25%ポイントと考えられている。実際に第3弾の制裁が発動されれば、制裁全体の規模は、中国の米国製品の輸入額を上回る。

つまり、貿易戦争への対応において、中国は不利だ。中国が、米国と同じだけの制裁を発動し、やられた分の報復を行うことができる金額は、米国から輸入する約1300億ドルだ。それ以上の報復関税はできない。実際にそうした状況が発生すると、中国の貿易にはブレーキがかかるだろう。それは、GDP成長率にマイナスの影響を与える可能性がある。

こうした見方を反映して、人民元はドルに対して軟調に推移している。状況によっては、投資家が中国の企業や金融機関の資金繰り悪化を懸念し、人民元の為替レートが一段と軟調に推移することもあるだろう。