なぜ鉄道会社が、箱根登山、大縄跳び、合唱をするのか

もちろん、知識教育もします。ただ、知識教育は2カ月ぐらいじゃ頭に入りきらないので、あとは現場に行って勉強してもらうような形でやっている。研修ではどちらかというと「一体感をつくる」ことや「人間力を形成する」ことに力を注いでいます。

たとえば、新入社員はクラスわけされており、クラスごとに箱根の山(8里、32キロ)を登るのです。われわれは原則、クラス全員でのゴールを求めます。なので、クラスごとにペース配分などの作戦を練ったうえで挑戦するのです。途中で疲れて足の動きが鈍くなる人もいますが、互いに声をかけ合い、鼓舞します。

合唱コンクールもします。選曲から伴奏、練習方法まですべて新人が決める。大縄跳び大会も開き、クラスごとに何回跳べたか競わせます。

──山登り、大縄跳び、合唱。いずれも鉄道と直接関係ないのでは。

これは「みんなと一緒にやって成し遂げた」という達成感をここで味わってもらうためにやっています。そのことを感じてもらえるのであれば、なんでもいいのです。

大縄跳びなんて、インストラクターとして参加している先輩社員も一緒に、各クラス300~400回も跳びます。そこでも新入社員は跳ぶ力が弱い人を、最も縄が低く通る列の真ん中に配置するなど、クラスごとに創意工夫をするのです。

われわれは1人で1つの作業をやる会社ではないのです。たとえば運転手と車掌の仲が悪かったら、うまくいきません。個々の能力が高くなくても、われわれは組織となると非常に強いのです。

新人研修を終えた社員の中には、親御さんが驚くほど、見違えるように変わる人もいます。研修センターという入り口は、企業人としての重要な第一歩だと思っています。

▼QUESTION
1 生年月日、出生地

1953年8月6日、岐阜県大垣市
2 出身高校、出身大学学部
岐阜県立岐阜高校、東京大学経済学部
3 好きな言葉
十人の一歩は一人の十歩に勝る
4 最近読んだ本
『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』門田隆将
5 尊敬する人
父・柘植せん英
6 私の健康法
ウオーキング、週末テニス
柘植康英(つげ・こうえい)
東海旅客鉄道(JR東海)会長
JR東海副社長、社長などを経て2018年4月から現職。実家は真宗大谷派の久遠寺。小3のとき、お経を読む資格「得度」を受け、檀家を回り、お経を読んで歩いた。大学時代は応援部の吹奏楽団員として東京六大学野球の試合でユーフォニウムを演奏した。
(構成=高橋大気 撮影=横溝浩孝)
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