離職率は世の中の平均7.9%に対し、1.2%と大変低い

話は国鉄時代に遡ります。国鉄末期は勤労意欲がない社員が大勢おり、会社全体に悪い空気が蔓延していました。国鉄が崩壊した要因の1つは「人」だったといえるでしょう。その後の民営化で新たなスタートを切った会社は、社員にいかに意欲を持たせるかということに注力し、人事制度や教育を一新しました。

たとえばアドバイザリー制度を導入しました。先輩社員1人が4人くらいの新人を受け持ち、会社がお金を渡して月に1回、定例会合を開いてもらいます。そこで新人がインフォーマルな相談をするのです。ここでの関係がその後、生涯の付き合いになることも多いのですよ。また、JR東海は35歳くらいまでは同期内に差をつけません。全体を引っ張り上げるからこそ、やる気の低下を防ぎ、同期同士の仲が良くなり、チームワークが向上するのです。

その結果として、われわれJR東海の定年退職を除いた離職率は、世の中の平均の7.9%に対し、1.2%と大変低いです。鉄道は技術を積み上げていくものなので、離職率が低いことは大事なことです。私は人というのは環境によっていくらでも変わると思っています。いくらでも能力を発揮し、意欲を高めることができると信じています。

──JR東海が社員に求めていることとは。

まずは、リニアプロジェクトや新幹線による大動脈輸送という国家的使命を背負っている自覚を持ってもらうこと。そして能動的であること。世の中やお客様のニーズは常に変わっていくので、その状況に対し自分の頭で考え、課題を見つけ解決できるような人間です。また、コミュニケーション能力も必要と考えています。鉄道はさまざまな職種の社員が協力して仕事をするもの。特にいまの若者は団体として行動する訓練をしている人があまり多くないです。だからこそ、新人教育では「集団でやりきる」ということを実践させているのです。

2カ月の研修で、会社の魂を打ち込む

──実際にどんな新人教育をしているのでしょうか。

われわれの新入社員は入社後、静岡県三島市にある総合研修センターに集められます。大卒も高卒も全員1カ所にまとめられ、2カ月ほどかけて会社の魂を打ち込みます。朝は7時20分から体操です。最近は一人っ子の新入社員が多くて、人との接点が少なかったのか、この研修にびっくりする人も多いですよ(笑)。