留年は「よくあること」に過ぎない

最後に謎を解いておきたい。というのも、慶應の幼稚舎に関して、2つの都市伝説のようなものがあるからだ。

1つ目は、幼稚舎出身者で大学卒業までストレートに進むのは6割しかいない、というウワサ。これは本当か? これについては、息子さんも幼稚舎出身のアラフィフ女性が自信を持って答えてくれた。

「それは、本当です。私は留年しなかったけど、親しい友だちはどこかしらで落第してたな。息子も、高校と大学両方で留年を経験しています。息子が塾高に入るとき、説明会で『各学年、1クラス分落第します』と発表があって、体育館がザワつきました。でも、実際、本当によくあることだから、当人のショックは少ないんですよ」

アラサ―男性もこう言った。

「高校留年はわりといますね。特に塾高。私はSFC高校でしたけど、2年に上がれなくなって、学校を辞めてアメリカへ渡った先輩がいました。本人たちは『あ、留年しちゃったんだ』ぐらいの感じですよ。高校では10段階の成績で6.5を切ると進級が危ういんですが、『5.8だった。やべー、そろそろかな』と言ってる運動部の人たちは普通にいた」

高校留年という一大事でもそんな感じとは、別世界である。自己肯定感を醸成する独特の文化が形成されている。

「親の職業別にクラス分け」は本当か

もうひとつのウワサ。幼稚舎のクラスは親の職業別で、〈K組は親も慶應出身者、EとI組はその他一般、O組は開業医〉と囁かれている。ネット上だけでなく、そう明記している書籍まである。現役慶大生や慶應OBで「そうです」という人もいる。本当か? まず、アラフィフ女性の返答。

「私のときは、K、E、O組の3クラスで、自分はO組でした。息子もO組。私の父も主人も医師ではありません。ママ友にも『あなたのお子さんは慶應にコネがあるのに、どうしてO組なの?』と聞かれた経験がある。そんな仕組みはありません」

父親が公的な仕事に就いているアラサ―男性も否定。

「幼稚舎ではO組でした。親の経歴でクラス分けされていることはないはずです。開業医の子はどのクラスにもいた覚えがあります」

全員たまたまO組だったが、どの親も職業は医師以外である。「O組の例外」だとしても、例外がこんなに重なることもないはずだ。クラス分けのウワサはデマである。

オバタカズユキ
ライター・編集者
1964年、東京都生まれ。大学卒業後、一瞬の出版社勤務を経て、フリーライターになる。社会時評、取材レポート、聞き書きなど幅広く活躍。『大学図鑑!』(ダイヤモンド)監修者。
(写真=iStock.com)
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