その一方でこんな評価もある。

「幼稚舎出身には、学部在学中に司法試験や国家総合職試験にひょいと受かるやつがいる。逆に、よく大学までたどり着けたなと思うくらいトロいやつもいる。天才とアホの両極端が多い。とっつきづらくて、個人的にあまりいい印象がない」(法学部3年男子)

「幼稚舎生は素直で何かに打ち込んでいる。世間ずれしていない。メンタルが強くて、人と関わるのがうまい。女子で団結していじめに立ち向かったという話を聞きました。女子の場合は、さすが幼稚舎と思うことがよくある」(文学部女子2年)

「僕のような地方出身者からすると、幼稚舎や慶應ニューヨーク校の人に触れるのは良い経験。小学校から十何年間の慶應経験で培った魅力がある。同じクラスタ(属性)の人で固まりがちだと言うけど、あの人たちが別クラスタの人の中で仕事をすることはないだろうから、必ずしも多様性を身につけなくていいと思う」(理工学部出身大学院生男子)

慶應の中でも特別な存在であるらしいことは伝わるのだが、人によって見え方がけっこう違う。実際はどうなのか。この目と耳で確かめてみたい。

でも、幼稚舎出身者は、1学年で100人ちょっとしかいない希少な存在だ。キャンパスで声をかけ続けても、当事者に出会うことはできなかった。

母子で幼稚舎出身のケース

そこで伝手をたどり、ちゃんとアポをとって幼稚舎出身者から話を聞くことにした。

まず、1980年代後半に慶應大学を卒業したアラフィフ女性。彼女は父親と夫も慶應卒。そして、息子さんも幼稚舎出身だ。昔だけでなく、今の幼稚舎事情にも通じている。

「学生さんからいじめの話が出ましたか。6年間クラス替えがなくて、確かに私の頃もいじめはありました。でも、ずっと続くことはないんですよね。女子なら全員一度はいじめられた経験があると思いますが、最終的に『いじめる人って、かわいそうな人』と許せるようになります。ただ、6年間一緒は良し悪しですよね。合わなかったら悲惨だとも思う」