ほかにも有名な固有名詞が何人分も飛び出して、ちょっと戸惑ったが、彼は幼稚舎時代、とても楽しかったそうだ。

オバタカズユキ『早稲田と慶應の研究』(小学館新書)

「幼稚舎のいいところは、クラス替えがないこともあり、友だちと深く仲良くなれるところ。あとは、無駄な“学歴コンプ(コンプレックス)”を持たないで済むところ。大学から入ってきた友だちには東大志望だったけどダメで、自分の学歴に対する強いコンプを持っている子もいました。その点、幼稚舎生は肩の力が抜けています」

マイナス面は何かあったか。

「交友関係に多様性がなくなるところです。友人も恵まれた環境の人ばかりですから。私は前職で、地方の受験生向けのスマホを使った家庭教師サービスの運営に取り組んでいたんですけど、地方の人のことや、受験生のことがわからなかったんですよ。今も、NPOで経済的に困難な子の支援をしていますが、自分が公立の学校に通っていればいろいろなプロフィールの人と知り合えて、もっと広い視点が持てたんじゃないかとも思います」

「自分の子供は幼稚舎に入れたくない」

そんなことをいつ頃から感じるようになったのか。

「大学に入ってから、内部生、幼稚舎出身であることを強く意識するようになりました。それも“学歴コンプ”の強い外部生を見たからですね。コンプを持っていない自分は幸せだけど、挫折経験がなく、どうなっちゃうんだろうと考えるようになった」

トータル、自身の過去をどう見ているのか。

「そうですね。自分の子供は幼稚舎に入れたくないです。根性がつかないから。今度、新しい事業を起ち上げる予定ですが、ひと山当てたら、子供はスイスやシンガポールのインターナショナルスクールに入れるかもしれません。僕は自分が甘やかされたことにコンプレックスがあるんです」

受け取り方によっては重い話なのだが、彼はサクサクとそう語った。じめっとならないのは、育ちの良さなんだろうなあと思った。