なぜ「聞く力」がリーダーに必要なのか

家康は、使者選びまで含めてコミュニケーションだということをよく理解していました。考えてみると、現代のビジネスにおいても、決裁権を持つトップ同士が話すのは最終段階。それまでに担当者同士でコミュニケーションを重ねて、ある程度の合意形成をすることが多いはずです。担当者は、どのような能力・性格の人物が相応しいのか。リーダーはそこまで気を配り、人選すべきでしょう。

さて、ここであらためて、なぜ「聞く力」がリーダーに必要なのか考えてみましょう。

歴史は陰謀に満ちている――。後世の人が抱きがちな誤解の1つです。関ヶ原の戦いは、三成ら反家康勢力を誘い出すために、狡猾な家康があえて会津征伐に出かけて畿内を空けたから起きたという説があります。しかし、これは結果から逆算した陰謀論。一次史料を読むと、西軍の決起で窮地に陥った家康の姿が浮かびあがってきます。

なぜ陰謀論がはびこるのか。それは、「歴史は何か必然性があってそうなった」と考えたほうが納得しやすいから。実際は偶然の積み重ねにすぎないのに、人々は「先を見通す力を持った誰かがコントロールして事を起こした」と考えて安心したいのです。

家康が的確に状況分析できたのはなぜか

歴史が偶然の産物だとしたら、歴史に名を残した人物たちは単に運がよかっただけなのでしょうか。じつはそれも違います。歴史に名を残すリーダーは、偶発的な出来事に対応する力を持っていました。家康もそうです。三成の蜂起という予想外のことが起きても、状況を冷静に分析して柔軟に対応し、関ヶ原の戦いを勝利に導きました。

では、家康が的確に状況分析できたのはなぜか。それは「聞く力」があったからです。予想が外れたということは、何か見落としがあったということ。家康は自らの見落としを認めて、人の意見に真摯に耳を傾けました。だから想定外の事態に対応できたわけです。

混迷の時代を生き抜くために必要なのは、聞く力に裏打ちされた対応力。歴史がそれを証明しています。

呉座勇一(ござ・ゆういち)
国際日本文化研究センター助教
東京大学文学部卒業。同大学大学院人文社会系研究科博士課程満期退学。博士(文学)。専攻は日本中世史。『応仁の乱』(中公新書)が50万部に迫るベストセラーに。最新刊に『陰謀の日本中世史』(角川新書)がある。
(構成=村上 敬 撮影=岡村隆広 写真=iStock.com)
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