人とのコミュニケーションには言葉が欠かせない。言葉を駆使して人生を勝ち上がる人は、どこが違うのか。各界を代表するプロフェッショナルに極意を聞いた。第4回は、MAYA SYSTEM取締役の徳田和嘉子取締役だ――。(全4回)

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2018年6月18日号)の特集「聞く力入門」の記事を再編集したものです。

現在はモバイル関連企業で取締役を務める徳田氏は、事業再生ファンド「ネクスト・キャピタル・パートナーズ」に在籍していた2012年、福岡のラジオ局CROSS FM(クロスエフエム)に出向、経営が行き詰まった同社の立て直しを指揮した。最初は社長室長として赴任、同年中に副社長、翌年6月に社長に就任。2年間の社長在任中に業績を回復させ、事業再建の使命を果たし、退任している。男社会の九州で、20代の女性であった徳田氏が全社のリーダーと認められるまでは、苦労の連続だった。

「東京から生意気な若い女が来るらしい」

私が出向した当時のCROSS FMは社員20人ほど、男女比は6対4ぐらいでした。一番若い人でも33歳、上は58歳の方もいて、28歳だった私にとっては全員が年上です。

写真=iStock.com/kuppa_rock

着任した私が「初めまして」と挨拶しても、みんな返事もせず、こちらを見てもくれません。無視して部屋に入り、中からガチャッと鍵をかけられたこともあります。完全に「敵」と見られているようでした。着任前には「東京から生意気な若い女が来るらしい」という噂も流れていたようです。

口も利いてくれない人が7割という中で、私は「とにかく話を聞かなくては」と考え、一人ひとりに「お話を聞かせてください」と声をかけ、全員と面談していきました。

最初は社内の会議室を使っていたのですが、なかなか心を開いてもらえないので、ランチに誘ったり、カフェでお茶したり、焼き鳥屋さんで一杯飲んだりもしました。声をかけても、「あなたとお茶するのは10年後」などと、あからさまに拒否する人もいました。

私は就職前にバックパッカーとして世界一周した経験がありますが、あのときのCROSS FMの人たちより、旅先のアフリカの人たちのほうがはるかに気持ちが通じたと感じましたね。

面談ではラジオ放送とはどういう仕事なのか、業績の裏付けとなる数字はどうなっているのかといったことを聞きたいと思っていたのですが、実際は「あの部署が悪い」「あの人が悪い」という悪口ばかり。部門間はもちろん、部門の中でもお互いが対立していたのです。経営不振でストレスが溜まっていて、みんな「自分の気持ちを聞いてほしい」と思っていたのでしょうね。