「20人の社員の全員と、仕事以外で1日1回話す」

私は一番年下ですし、ラジオの仕事は何も知らない素人なので、話を聞くときはひたすら下手に、謙虚にという姿勢でした。「すみません。『スポット』というのはどういう意味ですか」「『タイム』って何ですか」などと尋ねると、社員たちは「そんなことも知らないのか」と呆れながらも教えてくれました。スポットというのは単発のCM、タイムというのはレギュラーCMのことなのです。

一人ひとりの話を聞いているうちに、「この人は能力が高そうだな」「この人は別の部署のほうが力を発揮してくれるのでは」といったイメージが湧いてきました。

業界の事情を知ろうと外注先のディレクターなどからも話を聞きました。ディレクターや番組の司会を担当するナビゲーターといった人たちは、理屈よりも感覚を重視し、右脳で考えている人たちです。芸能人と同じで、その人独特のキャラクターや、特定のジャンルの音楽についてくわしいといったことが人気とつながっています。

面談のほかにも「20人の社員の全員と、仕事以外で1日1回話すこと」を目標にしました。社員も制作スタッフも、みんなラジオが好きだったり、音楽が好きだったりして、その延長で今の仕事に就いた人たちです。ほかのことは話そうとしなくても、音楽など、自分が好きなことだったら口を開いてくれました。私は面談で名前が出てきたミュージシャンについて調べ、後で話題にしたりしました。

客との付き合いは、4次会まで

それとは別に「一日一笑」と称して、日に1度、社員たちの笑いを誘うことを目標にしました。爆笑といっていい笑いを起こせたのは、赴任して1年ぐらい経った後のことで、それから聞ける話が増えてきたようです。

社内ばかりでなく、地元の経済界に溶け込むのにも時間がかかりました。九州は男社会で、肩書を持った女性は少ないのです。私は地元の集まりにはできるだけ出て、「九州は初めてなので、何もわかりません。いろいろ教えてください」と頭を下げました。