6秒という一定の時間が必要な理由は、脳の機能から説明できます。「怒り」が発生した時は、まず脳の大脳辺縁系にある偏桃体という部位が強く反応します。ここは、「爬虫類脳」とも言われ、ホルモンの分泌などの身体的反応をつかさどります。怒りを感じた時、身体が熱くなったり、わなわなと震えを覚えたりするのは、この部位が反応するからです。

一方、理性は前頭葉の働きによって機能します。しかし前頭葉が機能するのは、偏桃体の反応より時間がかかります。偏桃体は、生物として身を守るために、反射的にすばやく身体的な対応をさせるように機能するからです。偏桃体と前頭葉と機能するのに発生する時差が「6秒」なのです。

実は「6秒」という数字自体には諸説あり、長い場合は10秒という説もあります。おそらく個人差もあるでしょう。いずれにしても、怒りの衝動を覚えたときに、反射的に行動を起こすというのは、理性が働かない状況で反応しているため後悔につながるような行動を起こしがちです。前頭葉が機能するまでの時間をやり過ごす必要があるのです。

たとえば、深呼吸をしたり数を数えたり、気持ちを静めるような言葉を唱えるといった方法があります。もし可能であれば、上司が自分の視界に入ってこない場所に移動して、怒りの衝動が通り過ぎるのを待つのも有効です。

Aさんも上司の様子に我慢ができなくなり、衝動的に抗議しかけたこともあったそうです。しかし、以前に同僚がまるでキレたように上司に反論した時に、売り言葉に買い言葉でひどい言い争いになったのを見て、衝動を抑えることができたのだそうです。

理性が戻ってきたら、改めて、その怒りを相手に伝えたほうがよいか、伝えるのであれば、どんな方法が適切なのかを考えればよいのです。「頭に血が上った状態で反射的に行動しない」、まずこのことをしっかりと覚えておいてください。

「怒り」は理想と現実のギャップから生まれる

そもそも「怒り」はどういったメカニズムで発生するのでしょうか?

心理学の「認知モデル」によると、「感情」は何かの出来事によって直接引き起こされるのではありません。自分の「思考」が、その出来事に意味付けをします。どんな意味付けをされるかによって、生まれて来る感情が変わるのです。