自分のことはすべて後回しで子供と向き合う親

ひきこもりの子供を抱えた家族の相談で、私は「最近、いつ旅行に行きました?」という質問をよくします。すると、「ここ10年ぐらい行ったことはない」「子供がひきこもりになってからは旅行どころではない」という答えが返ってくることが少なくありません。

子供がひきこもりになってからというもの、自分のことはすべて後回しにして、子供と向き合う親が多いのです。そして、家庭が「子供がひきこもりから立ち直って就職する」というあるべき姿に戻るまでは、「自分の楽しみを追求してはいけない」とやりたいことをすべて我慢してしまうのです。

でもそれが長く続くと、ひきこもりの子供につらく当たる原因にもなりますし、子供にとってもプレッシャーになるでしょう。「子供は子供。私は私」と考えて、自分自身の生活も大切にしてほしいと考えています。

自分の趣味を持ち、時には夫婦で余暇をエンジョイするのです。そして、ご夫婦でどのような老後を送るのかも考えていただくようにお願いしています。

今は、親が子供の身の回りのことをしてやれます。しかし、いずれは親のほうが先に亡くなります。たとえ生活していけるだけのお金を残すことはできたとしても、身の回りの面倒まで見てやることはできません。自分で生活していけるだけの“生活力”は、親が元気なうちに与えておく必要があります。

▼ひきこもりの子供に「生活力」を残すための方法4

私たちのメンバー(「働けない子どものお金を考える会」)は講演会などで、お金だけでなく、生活力を残してあげられるような、さまざまな工夫を提案しています。そのいくつかをご紹介しましょう。

1.ガス・水道・電気などのライフラインの名義を子供に換えておく。

人(親)が亡くなると、さまざまな手続きが必要になります。ひきこもりの子供の場合、すぐに処理できないことも多いでしょう。預金口座が凍結され、料金引き落としができないために、ライフラインが止まってしまうということも考えられます。生活に必要なものだけでも、あらかじめ子供の名義に変更しておくと安心です。

写真はイメージです(写真=iStock.com/paylessimages)

2.少なくともご飯は炊けるようにしておく。

今の時代、まったく調理ができなくても食事に困ることはありません。しかし、すべてがコンビニやスーパーのお弁当では、食費もかさみます。少しでも自分でできれば節約になり、長期間では大きな効果を発揮します。まずは炊飯器の扱いから。たとえ外出ができない時でも食事が取れるようになります。

3.市役所などに連れていき、行政機関に慣れさせておく。

生活に行き詰まったら、やはり頼りになるのが行政の支援です。ただし一人になったら、自分で支援を求めなければなりません。どのような支援が受けられるかは、その際に相談すればよいでしょう。まずは行政機関に“行くことに慣れておく”ことが必要です。折に触れ、子供を連れて行くとよいでしょう。