衣食住すべて親頼みの無職28歳を心配する母親

私の家計相談では、ひきこもりの子供が今後も働けないことを前提に10年後、20年後の家計の状況を分析し、それでも家計が破綻しないための工夫をアドバイスしています。

この時も、現在の資産や家計状況をうかがっていました。自宅の分譲マンションの住宅ローン返済は終えており、57歳の会社員であるご主人は、定年まで勤めれば2000万円以上の退職金が見込めることもわかりました。そのまま継続雇用される可能性も高く、60代でも一定の収入を得られそうです。

そうした状況を踏まえ、暫定的なキャッシュ・フロー表を作成しました。長男が30歳以下とまだ若く、かなり長期の分析となるため、前提次第で推計結果は変わってきます。経済的には予断は許さない状況ですが、当面の間は親が残す財産(預貯金や退職金など)を取り崩しながら生活できることがわかりました。

「もしお子さんが、このままの状態が続いたとしても、決して生活が成り立たないわけではありません。うまく工夫していけば十分にやっていけますよ」

私は、元気づけたつもりだったのですが、鈴木さんの表情は晴れません。そんな時に口を突いて出てきたのが、冒頭にご紹介した鈴木さんの一言でした。

「もう疲れました」

その背景にあるのが、生活面に関する心配です。兄弟姉妹がおらず、いずれは長男もひとりで生活していかなければならなくなります。資金的にはあまり問題がないとしても、「日々の“衣食住”を独力でできるのでしょうか」と鈴木さんは不安を募らせます。

▼「無理です。健ちゃんの食事を用意しなければいけないし」

10年以上ひきこもっている間、両親はこの状況をただ放置していたわけではありません。むしろ、ひきこもり状態から回復できるように、いろいろと取り組んできました。

自治体の相談窓口や精神科医にアドバイスを求め、工夫しながら声掛けをしてきました。民間の支援団体にも依頼して、訪問相談員に来てもらったり、時には半ば無理やり外へ連れ出したりすることもありました。しかし、いずれも状況の改善にはつながりませんでした。

ため息ばかりの鈴木さん。私は話題を変えてみました。

写真はイメージです(写真=iStock.com/suriya silsaksom)

「ところで、鈴木さん。最近、旅行に行ったことはありますか?」

「旅行なんて、ここしばらくは行っていません。最近行ったのは……う~ん、健ちゃん(長男)が高校生の時の家族旅行かなぁ。それ以来行っていません」

「それはいけませんね。気分転換のためにも、ご夫婦だけで1泊でも旅行をしてはどうですか」

「それは無理ですよ。健ちゃん(長男)の食事を用意しなければいけないし」

「ご飯ぐらい、教えておけば自分で炊けますし、コンビニもあるから大丈夫ですよ。仮にそれが無理でも、1日ぐらい食べなくても死にはしませんよ」