北朝鮮は「拉致問題は解決した」との姿勢を崩さない
共同声明には非核化の具体的な行程や検証方法は盛り込まれず、今後の米朝の動きを待たなければならない。残された課題は多い。
記者会見でトランプ氏は日本人拉致問題を提起したことも明らかにしたが、共同声明には入らなかった。なぜだろうか。北朝鮮が「拉致問題は解決した」との姿勢を崩さないからで、現実には安倍晋三首相が繰り返す「日朝会談」など蚊屋の外なのだ。
記者会見でトランプ氏は「北朝鮮による非核化のプロセスが迅速に始まる」とも語ったが、共同声明には「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」は盛り込まれなかった。
その理由をトランプ氏は「完全非核化には技術的に長い時間がかかる」と語ったが、金正恩氏との会見前には、それについてひと言も話していなかった。
トランプ氏は本気で北朝鮮を信用するのか
対北朝鮮への制裁は当面維持するとしたが、北朝鮮の核兵器の脅威がなくなれば解除するとも明らかにした。
共同声明では朝鮮半島の完全な非核化に加え、(1)新しい米朝関係の確立(2)朝鮮半島の持続的で安定した平和体制構築(3)朝鮮戦争の戦没米兵の遺骨収集で協力―を挙げた。
さらに記者会見でトランプ氏は休戦状態の朝鮮戦争(1950~1953年)に関し、「間もなく終結することを期待している」とも述べた。
本当だろうか。トランプ氏は何を根拠にそこまでいえるのだろうか。本気で北朝鮮を信用するのか。
なぜトランプ氏は共同声明で譲歩したのか
トランプ氏と金正恩氏は犬猿の仲だった。北朝鮮がミサイルの発射を繰り返していた昨年夏には、お互いをののしり合っていた。
トランプ氏が「リトルロケットマン」とからかえば、正恩氏が「老いぼれ」とののしった。米朝会談の開催が決まった直後にも、開催が危ぶまれるほど衝突した。
それが今回の米朝会談では10秒以上も固い握手をして笑顔で世界中のメディアのフラッシュやライトを浴びた。
会談で正恩氏は「すべてを乗り越えてここまできた。会談の実現に努力をしてくださったトランプ大統領に感謝します」と話した。一方のトランプ氏は「とてもいい人だ。頭もよく、優れた交渉者で才能がある。自分の国を愛している」と褒めちぎった。記者会見でも「これから何度も会うことになるだろう」と述べ、「ホワイトハウスに招待するのか」という記者の質問に「当然だ」と答えていた。
ここで大きな疑問がある。なぜ、トランプ氏は正恩氏をもてなし、共同声明で大きく譲歩したのだろうか。