トイレのタオルにウンコをなすりつける大使
【佐藤】どうでしょう。昔は自殺の大蔵、汚職の通産、不倫の外務と言われていたことはありますが、ある時期から外務省が三冠王みたいになりましたよね。一般的に見れば、エリートだし、収入はあるし、外国語だってできる。でもそういう人間たちの集まりにこそ、世の中のちょっとした空気が、伝わりやすいのかもしれない。
私が日本に帰国してから勤務した国際情報局と同じ5階に待命中の大使の部屋がありました。5階のトイレにあった手ふき用のタオルに、自分のうんこをなすりつけている大使がいました。自分の人事に不満があったようだけど、こちらとしてはたまったもんじゃない。その後、トイレには、エアータオルが設置されました(笑)。
その話を知り合いの記者に話すと、「外務省もそうですか。うちも部長になれなかった編集委員が宿泊をした日だけに、シャワールームに大きなうんこが落ちてるんです」と言うのです。この国のエリートはどうなっているのかと心配になりました。
今でこそ笑い話だけど、こういう現象は、昔からあったことじゃないような感じがします。やっぱり平成になってから出てきた現象じゃないかと思っているんです。
一部上場企業の中でも、みな黙っているだけで、同じようなことがあると思うんです。
【片山】平成の精神性が関係しているのかもしれませんね。私が当時住んでいた中野区でも、青梅街道の歩道橋の真ん中で夜誰かが大便をするらしくて、ついに「歩道橋の上でうんこをしないでください」という看板が出たことがあった。これは、90年代の前半じゃないでしょうか。
【佐藤】そういえば、絵本作家サトシンのベストセラー『うんこ!』も2010年の本でした。
【片山】なるほど、最近は、『うんこ漢字ドリル』も話題になりました。
【佐藤】子どもの教育題材にうんこが使われるようになるとは、少なくとも戦前の人間は思っていないわけでしょう。いろんなところで、今までの常識としていたことが崩れているんですよ。
作家
1960年、東京都生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館などを経て、外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年5月、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受けた。主な著書に『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』(毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅賞)などがある。
片山 杜秀(かたやま・もりひで)
慶應義塾大学法学部教授
1963年、宮城県生まれ。思想史研究者。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。専攻は近代政治思想史、政治文化論。音楽評論家としても定評がある。著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』(この2冊で吉田秀和賞、サントリー学芸賞)、『未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命』などがある。